研究概要 |
イオン液体は,ユニークな物理化学的特性を示し,またそれらを容易に制御できることから,多くの関心が寄せられている.また,イオン液体と水から成る二成分混合溶媒系は,イオン液体または水の単独溶媒には見られない多様な特性が生じるユニークな媒体である.本研究では,イオン液体として[C_2mim][C_2OSO_3]および[C_2mim][BF_4]を用い,水との混合溶媒系において,アゾベンゼン部位を有する界面活性剤(Azo1)の溶媒和,自己集合,サーモクロミズム特性について検討した.[C_2mim][C_2OSO_3]/水混合溶媒系において,Azo1は淡色効果または濃色効果を伴ってサーモクロミズムを示し,その挙動は溶媒組成に依存することが分かった.Azo1の会合体は,60wt%イオン液体中において可逆的なサーモクロミズムを明確に示した.これに対して,30wt%イオン液体中ではサーモクロミズムは観測されず,2,10,90wt%イオン液体中では淡色効果とともにわずかなブルーシフトしか観測されなかった.一方,[C_2mim][BF_4]/水混合溶媒系において,Azo1は全く異なる挙動を示した.Azo1の分散液(0~45wt% イオン液体)を加熱冷却後,室温において可視光を照射したところ,Azo1の会合体がさらに自己集合して巨大なネマチック液晶性のベシクル構造が形成された.一方,90wt%イオン液体中では,温度に依存してAzo1から成る会合体の可視吸収スペクトルが変化した.はじめに90℃まで加熱処理を行ったところ,スペクトルに変化は見られなかった.しかし,室温まで冷却するとレッドシフトが観測された.興味深いことに,2回目以降の加熱サイクルでは,可逆的なサーモクロミズムが観測された.このように,0-45wt%イオン液体と90wt%イオン液体では異なる作用を示し,これは加熱によって一部のBF4アニオンが加水分解して溶媒のpHが変化したためだと考えられる.このように,イオン液体の性質が溶液中における界面活性剤の自己集合挙動に大きな影響を与えることを見出した.
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今後の研究の推進方策 |
[C_2mim][C_2OSO_3]/水混合溶媒系におけるAzo1ナノ集合体の可逆的なサーモクロミズムについて,他の分析手法により検討を加える.サーモクロミズムは,温度によってイミダゾリウムカチオンとAzo1との相互作用が変化し,それに伴ってナノ集合体におけるAzo1の分子配向(H-またはJ-会合)が変化するためと考えられる.また,他のイオン液体を用いた2成分混合溶媒系において同様の実験を行うことにより,この現象がカチオン-アニオン-水間の相互作用の変化に起因することを明らかにする.[C_2mim][BF_4]/水混合溶媒系におけるネマチック液晶性の巨大ベシクル形成と可逆的なサーモクロミズムの発現機構について,アゾベンゼン部位のcis-trahs光異性化,溶媒和ならびにBF_4アニオンの加水分解に基づくアゾベンゼン部位のプロトン化の観点から検討を加える.
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