研究概要 |
TWIP鋼とはTwinning Induced Plasticityの略であり、高い引張延性と高強度を兼ね備えることから近年世界的に注目されている高機能鉄鋼材料である. 高Mn準安定オーステナイト鋼にAl等の合金元素を加えることにより、FCC結晶の積層欠陥エネルギーを大きく低下させ、双晶変形を起こりやすくしているものと考えられるが、その高延性・高強度の発現メカニズムは十分明らかではない. 本研究はTWIP鋼のオーステナイト結晶粒を1㎛以下の超微細結晶粒とすることにより、さらに高い強度と延性、靭性を、より単純な化学組成で実現し、組織と機械的性質の相関性を詳細に明らかにしようとするものである. こうした試みはこれまで世界的にも行なわれておらず、初めてとなる興味深い試みである. 平成24年度は典型的なTWIP鋼で、基本的データが数多く報告されているFe-31Mn-3Al-3Si合金を用いて実験研究を行った. 同合金を真空溶解により作製し、所定の形状の母合金60kgを準備した, これに対し冷間圧延による強加工を施し、格子欠陥密度の高いナノ組織を作製した, 得られた巨大ひずみ加工材に対して種々の条件で焼鈍を行い、焼鈍に伴う組織変化を光学顕微鏡、SEM/EBSD、TEMなどの顕微鏡法を用いて明らかにした。加工材およびその焼鈍材の室温引張試験を行った。これらの実験の結果、いわゆる巨大ひずみ加工を必要とせずに通常の強冷間圧延と焼鈍プロセスによって平均粒径400㎜の完全再結晶ナノ組織が得られることを明らかにした。この粒径は、再結晶組織の粒径としてはこれまでに報告されていない最小の粒径である。また得られたナノ組織材が、単相超微細粒組織を有するにも関わらず、高い強度と大きな引張延性を両立するという、極めて興味深い結果を得た。得られた完全再結晶組織を有するTWIP鋼に対して種々のひずみ量の室温引張試験を行い、各段階の変形組織をTEMにより詳細に解析した。その結果、変形双晶の発現に及ぼすマトリクス粒径の影響と、それらが加工硬化に与える影響を明らかにした。
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