ソルガムなどの作物にケイ酸施与することで乾燥、高塩、病虫害などの環境ストレス耐性が向上することが知られているが、これまでにストレス緩和機構を分子レベルで解明した研究は殆どない。ケイ酸処理ソルガムでポリアミン合成酵素遺伝子(S-adenosylmethionine decarboxylase3 : SbSAMDC3)の発現が確認された。S-adenosyl-methionine decarboxylaseは環境ストレス応答物質として注目されているポリアミン(アミノ基を2つ以上持つ有機物質)の生合成の鍵になる酵素で、植物ホルモンのエチレンの生合成にも関与する。本研究では、SbSAMDC機能解明を通して、環境ストレス応答時のこれら生理活性物質の相互作用を明らかにし、SbSAMDC3過剰発現、ノックアウトモデル植物(シロイヌナズナ)の乾燥と塩ストレス応答、耐性を評価することで本遺伝子の乾燥と塩ストレス耐性遺伝子としての有効性を確認し、最終的には乾燥と塩耐性ジャガイモやイネ等作物の開発を目指す。 環境制御温室でSbSAMDC3を過剰発現させたシロイヌナズナおよび野生型を用いて、塩ストレス下でのポリアミン量の変化およびイオン含量、漏出量を比較することにより、ケイ素とポリアミンの関係性のさらなる機能解析を行った。更にSbSAMDC3の機能解析の一環として、蛍光タンパク質を用いた細胞内局在性の観察を同時に行った。塩ストレス下でSbSAMDC3を過剰発現させたシロイヌナズナの発芽率、生長量、光合成活性等は野生型より高い、細胞のダメージ(イオン漏出量)を小さい、塩耐性があることを示した。ポリアミン測定の結果、過剰発現体葉のプトレスシンとスペルミン量は野生型より高いことが確認できました。また、過剰発現体のNa^+含量は野生型より低いです。これはSAMDCを過剰発現させることにより増加したポリアミンはH+-ATPaseを活性化させ、Na^+の排出を促進している可能性を考えられる。細胞内局在性の観察結果、SbSAMDC3は核、細胞膜、液胞膜、葉緑体に局在することが確認されました。細胞膜や液胞膜に局在していることから細胞膜および液胞膜上のH+-ATPaseの活性化を行い、Na^+とH^+の対向輸送を促進しNa+を積極的に排出することにより膜の安定化に貢献する役割をポリアミンが担っていると考えられる。
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