研究課題/領域番号 |
11F01104
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
林 良雄 東京薬科大学, 薬学部, 教授
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研究分担者 |
PILLAIYAR THANIGAIMALAI 東京薬科大学, 薬学部, 外国人特別研究員
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キーワード | 重症急性呼吸器症候群 / 創薬化学 / プロテアーゼ阻害剤 / SARS / 医薬品化学 / ペプチド / ジペプチド型阻害剤 / アリールケトン |
研究概要 |
受入研究室におけるこれまでの研究から、SARSシステインプロテアーゼを阻害できる新しい阻害機構として、親電子性アリールケトン構造が有効であることを確認し、P1部位側鎖部にピロリドン型環状構造を有するアミノ酸誘導体およびカルボキシル基部分にチアゾール-2-ケトンを有するトリペプチド型化合物(Cbz-Val-Leu-amino-3-oxo-3-(thiazol-2-yl)propyl)pyrrolidin-2-one)が比較的良好なウイルスプロテアーゼ阻害活性を有することが解っていた。実用的創薬化合物の創製に向た阻害活性向上のために、平成23年度はP4部位およびアリールケトン部位の構造活性相関を進め、親水性構造をP4位に有し、10nMレベルの強い阻害活性(Ki)を示すトリペプチド誘導体を見いだすに至った。本年度においてはこの研究を更に進め、P3部位を除去した「ジペプチド型ペプチドミメティクス」の創製に新たに挑戦した。即ち、P3位Val残基の除去した。その結果、最初は酵素阻害活性が大きく低下したが、種々の誘導体を合成し、構造活性相関を検討したところ、阻害活性が徐々に向上し、先ずは中程度であるが興味深い酵素阻害活性を示すジペプチド型化合物を得ることに成功した。そこで、この化合物のP3位にあるN-arylglycine構造に注目し、構造最適化を行なった結果、酵素阻害活性(Ki)値が6nMという強力な阻害活性を示すジペプチドミメティック化合物を得た。標的プロテアーゼとのコンンピューターを用いたドッキングスタディーから、この化合物のIndole環窒素原子が、プロテアーゼのGlu166残基と新たな水素結合を形成することが示唆された。この相互作用は、化合物がプロテアーゼを強力に認識する上で有効であったために、阻害活性が大きく向上したものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究において、トリペプチド型阻害剤より、分子量がより小さな高活性ジペプチド型阻害剤を創製できた。ジペプチドの方が創薬的価値も高く、この結果は非常に意義深い。またコンピュータを用いたシミュレーションによる分子構造解析から、P3位に導入したインドール構造が、本来のP3位Val残基を巧くミミックしており、さらにインドール窒素が標的プロテアーゼと新たな水素結合を形成していることが示唆された。これが活性向上の一因を考えられる。このような興味深い結果と高活性化合物を獲得できたことから本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究で、強力なジペプチド型阻害剤の獲得に成功した。今後さらに構造の最適化をめざすが、得られた成果は論文等で発表を行なう(投稿中)。今回、創製したジペプチド型誘導体の中には、Ki値が6nMと強力な阻害活性を有する化合物があり、かなり有望である。また最近、中東地区でSARSウイルスの再興の兆しが高まっており、SARS治療薬の開発をめざす本創薬研究はとても重要である。一方、相同性が非常に高い同様なシステインプロテアーゼを有する病原性ウイルスが多数見つかっている。多くは、+鎖RNAを有するRNAウイルス群で、例えばヒト手足口病ウイルス、口蹄疫ウイルス、ノロウイルス、風邪のウイルスなどである。したがって、今後、本研究を土台にこれらの複数のウイルスの複製を阻害し、抗ウイルス効果を発揮する新規システインプロテアーゼ阻害剤の開発に繋げたい。
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