パラジウム(Pd)膜は高分子膜や無機膜に比して高い水素選択性および透過性能を有していることから燃料電池に必要な水素の精製への利用が期待されている。Pd膜の水素透過流束は膜厚に反比例し増大するが、そのうちに水素分子の吸着・脱離といった表面過程の影響が顕著となって透過流束は限界に達すると考えられている。しかしその実験的根拠は十分でない。そこで本研究は有効表面積を小さくすることで表面律速の状況を作り出し、Pd膜で得られる水素透過流束の上限を実験的に評価することを目的とした。有効表面積を小さくするためにPd膜表面にリソグラフィーの技術を活用して銅(Cu)のマスクを形成することを特長としている。 スパッタリング法、電気メッキ法でCuを被覆したPd膜を作製してその水素透過特性を調べた。Cu層に開口のない試料において、当初水素透過性に大きな経時変化が見られ、それがCuのPd中への拡散に起因することが判明した。そこで、安定した透過特性が得られるよう層状構造を工夫し、Cuを他の元素に変えるなど試み、マイクロメートルレベルの開口を有するマスクの作製に成功した。しかしながら、最大流束の評価には至らなかった。 一方で、水素濃度による拡散係数や溶解度係数の変化を調べるため新しい透過モデルの構築を行った。その結果、水素透過係数が圧力に依存する非理想的な挙動の程度を表す指標の提案に至った。これまで広く用いられていたが十分な理論的根拠のなかった指数則を使わずとも、この指標を用いて理想からのずれを表現できることを示すことに成功した。
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