研究概要 |
ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)のアクセサリー蛋白質Vprは、核移行、細胞周期のG2期停止、アポトーシスおよび免疫抑制などの多機能性を発揮することで、HIV-1複製に寄与している。本研究では非分裂細胞におけるVprの未知の機能を解明するために、Vpr発現adenovirusベクターあるいはR5 tropic virusとそのVpr欠損ウイルスをMacrophageと樹状細胞(DC)に感染させ、Vprによって発現が変動する宿主遺伝子を網羅的に解析した。末梢血単核球(PBMC)由来のCD14+細胞をGM-CSF,IL-4あるいはM-CSFで刺激して、未熟DCおよびMacrophageを得て、構築したVpr発現adenovirus vectorおよびR5 tropic virus NLAd8及びΔRを感染させ、アデノウイルス感染48時間後、HIV-1感染1,3および10日後にRNAを抽出してmicroarray analysisを行った。MacrophageにおけるHIV感染において、Vpr発現によりinterferon誘導遺伝子、IFIT1,T2,MX2などの発現が低下した。一方、Vpr発現アデノウイルスベクターを用いた系では、これらの遺伝子の発現が上昇した。DCにおいても同様の傾向が認められた。続いてreal time PCRを行ったところ、アデノウイルスベクターを用いた実験において、マイクロアレーの結果と一致して、IFN誘導遺伝子の発現上昇が確認された。さらに、Western Blottingにおいて蛋白の発現レベルを解析した結果、STAT1,TRAIL,IRF7,ISG20の発現の上昇とSTAT1のリン酸化も増強されていることが明らかとなった。以上の結果から、VprはType I interferonのJAK-STAT pathwayの活性化に関与することが示唆された。興味深い事に、Ubiquitin結合酵素の一つであるUBE2C遺伝子の発現がVprによって低下することが見出された。Real time PCRによって、感染後1,3および10日目にVprの発現によってUBE2C遺伝子抑制されることが確認された。そこで、UBE2Cをon-target siRNAによってノックダウンして、flow cytometryによって細胞周期の解析を行った。その結果、コントロールsiRNAに比べてUBE2C特異的siRNAを行った細胞はVprのG2期arrest効果を約10%上昇していた。以上の結果からUBE2Cの発現が抑制されるとVprが誘導するG2期arrestが増強することが明らかとなった。今後はその詳細な機序とHIV-1感染における意義を解析する予定である。
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