本研究は、アジアの野生イネ(Oryza rufipogon W630)を2種類の典型的な栽培品種(O. sativa Japonica NipPonbareおよびO. sativa Indica IR36)で戻し交雑した自殖系統を用いて、野生イネ由来の有用農業形質に関する新規遺伝子を探索することを目的としている。 まず、O. sativa Japonica Nipponbareで戻し交雑した161の自殖系統については、昨年度第4および第5染色体上の2カ所に早朝開花性に関するQTLが検出された。そこで、それぞれの領域で様々な長さの染色体断片を持つ個体を選抜し形質調査を行ったところ、1カ所のQTL領域のみを持つ個体では有意な早朝開花性は概察されなかった。一方、第4および第5染色体上の2カ所のQTL領域を持っ個体では早朝開花性がみられた。そのため、これら2つのQTL領域を野生イネから栽培イネに導入すれば、早朝開花性によって高温を回避できる優良栽培品種が育成できると考えられた。 もう1つの、O. sativa Indica IR36で戻し交雑した172系統からなる戻し交雑自殖系統については、5っの種子形質(種子重、種子長、種子幅、玄米長、玄米幅)および5つの農業形質(出穂期、桿長、穂長、穂形、分げつ数)に関するQTL解析を行った。その結果、合計15カ所のQTLが推定された。昨年度、同じ形質に関してNipponbare遺伝的背景の系統で検出されたものと比較したところ、第1染色体上の稗長、第4染色体上の穂形ならびに第8染色体上の出穂期に関するQTL領域が重複していた。これらのうち、第1および第4染色体の領域にはSD1ならびにSPR3の遺伝子座が含まれていたため、これらはイネ栽培種JapollicaおよびIndicaの双方の遺伝的背景で効果を持っ遺伝子座であると考えられた。
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