研究課題/領域番号 |
11F01392
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
世良 貴史 岡山大学, 自然科学研究科, 教授
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研究分担者 |
HOWLADER M.t.h 岡山大学, 大学院自然科学研究科, 外国人特別研究員
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キーワード | Bacillus thuriniensis / Cry4Aa / Culex pipiens / 糖鎖 / QCMデバイス / 受容体結合 / 蚊 / 2価陽イオン |
研究概要 |
殺蚊トキシンCry4Aaは他の多くのCryトキシンと極めて類似する構造(3ドメイン構造)を持つにもかかわらず、殺虫活性に関与する機能構造が他のトキシンと異なることがこれまでの研究結果から示唆されている。Cry4Aaの作用機構を解明し、他のCryトキシンとの相違点を明らかにすることは、効率的な害虫防除システムを構築する上でも重要と考えられる。本研究ではこれまでCry4Aaの機能構造解析を中心に研究を進めてきたが、本年度は特に殺虫活性に関連する様々な因子(糖や2価陽イオンなど)についての解析を進め、以下のような成果を得た。 糖が殺虫活性に及ぼす効果 : タンパク質糖鎖を構成する一般的な糖でCry4Aaを処理した。その結果、Cry4Aaの殺虫活性はGalNAc処理により促進され、Fucose処理によって阻害された。MannoseやGalactose、GlcNAc処理はCry4Aaの殺虫活性に影響しなかった。C1y4AaのドメインIIIには糖が結合できる「くぼみ」が存在し、この構造を介して標的細胞膜上に露出する糖鎖と相互作用する可能性が考えられた。 2価陽イオンが殺虫活性に及ぼす効果 : アカイエカ幼虫を陽イオンのキレート剤であるEDTAで処理した結果、Cry4Aaに対する感受性が大幅に減少した。Cly4Aa感受性は幼虫をMgCl_2処理すると回復したが、CaCl2処理は影響しなかった。これはCry4Aaの殺虫活性に標的細胞内へのMg^<2+>流入を契機とするシグナル伝達経路が関与する可能性を示唆していた。 興味深いことに、GalNAc処理によるCry4Aa殺虫活性の促進は幼虫のEDTA処理とは関係なく観察され、Fucose処理による殺虫活性の阻害効果は幼虫のEDTA処理によって観察できなくなった。これはCry4Aaの殺虫機構が2つ以上の経路で構成されることを示唆していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一般的にCryトキシンはドメインIIの表面に露出するループ構造を介して受容体結合し、その後にドメインIが標的細胞膜組織に貫入して小孔を形成する(小孔形成モデル)と考えられている。一方、新たな殺虫機構モデルとして、受容体結合後にadenylyl cyclase/protein kinase A経路が活性化されて細胞死を誘導するモデル(情報伝達モデル)も提唱されている。本研究ではCry4Aaの殺虫活性にMg^<2+>が関与する可能性を示唆したが、Mg^<2+>はprotein kinase Aの活性化に関わる因子であり、Cly4Aaの殺虫機構に情報伝達モデルも関与する可能性を示す重要な知見が得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究のこれまでの結果からCry4Aaの受容体結合にはドメインII及びIIIの複数の機能構造が関与する、そしてドメインIIIを介した相互作用にはGalNAcもしくはFucoseを含む糖鎖が関与する可能性が示唆された。また殺虫活性にMg^<2+>が大きく影響することから、Cry4Aaの殺虫機構には小孔形成モデルと情報伝達モデルの両方が関与する可能性が示唆されている。 今後はこれらの断片的な結果を関連付けて理解するため実験を行う。具体的にはドメインII及びIIIの変異導入解析と、糖及び2価陽イオン処理、場合によってはprotein kinase A阻害剤の処理を組み合わせ、Cry4Aa殺虫活性の変動を解析する。
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