研究概要 |
脊椎動物の性成熟を支配する脳-脳下垂体-生殖腺軸(BPG-axis)の活動は,春機発動の開始に伴い活性化すると考えられているが,魚類ではその詳細は明らかでない。これまでBPG-axisの最上位における生殖制御因子として生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)が知られていたが,近年,哺乳類において,GnRHの分泌を促して性成熟の引金を引く因子,キスペプチン(Kiss)が発見された。本研究では,春機発動機構解明のための解析ツールと全生活史にわたる飼育実験系が整備されているマサバを用いて,Kissの機能を明かにする。 平成23年度はマサバの2種Kissの遺伝子クローニングの結果に基づき、マサバのKiSS-1およびKiSS-2抗体を作製し神経分泌細胞の脳内局在を調べるとともに,生殖周期に伴う雌雄の脳内における2種KissのmRNA発現量を調べた。その結果,KiSS-1細胞は脳内に広く分布しているのに対し,KiSS-2細胞は視床下部にのみ存在することが明らかとなった。さらに,生殖周期に伴う雌の脳内における2種KissのmRNA発現量を調べた結果,KiSS-2発現量は成熟に伴い減少し,産卵期後に最も低くなったが,KiSS-1の発現量は生殖周期を通して一定であった。以上,マサバではKiss-2がBPG-axisの最上流で性成熟を制御していることが示唆された。 次に、孵化仔魚から満1歳になるまでの標本を随時採集し、性分化および生殖腺の発達過程を組織学的に明らかにするとともに、マサバは満1年で初回成熟に達することを確認した。さらに、雌の初回成熟に伴う脳下垂体における生殖腺刺激ホルモン遺伝子の発現解析を行った。その結果、FSHβレベルは、卵黄形成中に既に高い値を維持していた。一方、GPαおよびLHβレベルは卵黄形成後期でピークとなった。さらに3種サブユニットのmRNAレベルは産卵期終了後に低下した。これらの結果より、FSHは卵黄形成に、LHは卵黄形成と卵成熟両方に関与していることが示唆された。Kiss遺伝子の初回成熟に伴う発現変動は、今後行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は以下の実験を行い、マサバの春季発動におけるKissの機能を明かにする。 1)春機発動前のマサバ雌雄(1歳)に対して,合成Kiss-1およびKiss-2を筋肉内投与し,定期採集を行う。脳,脳下垂体,生殖腺を採取し,2種Kiss,Kiss受容体(GPR-54),3種GnRH,FSH-β,LH-β,FSH受容体,LH受容体のmRNA量の発現変化をreal-time PCRを用いて解析するとともに,投与効果を生殖細胞の発達状態で判定する。 4)マサバへのKiss投与による成熟・産卵誘導効果 精子形成および卵黄形成を終了した雌雄親魚(2歳)を対象にして,合成Kiss-1およびKiss-2を筋肉内投与し,最終成熟および産卵誘導効果を調べる。
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