研究課題
2012会計年度においては、筆者は主に3つの研究課題に従事した。第1の研究課題は、超電導マイクロ波回路における動的カシミール放射での非古典的相関の研究であった。これは、以前に研究したDCE(動的カシミール効果)の拡張研究であり、DCEに対する現実的な実験設定の提案に成功を収め、またスエーデンのチャルマース工科大学の実験者と協同して、この効果の実験的示威にも成功した。最新研究においては、マイクロ波回路内で量子相関を古典相関から区別する理論的方法を提案し、またDCEでの実験はこの量子領域内で十分適切であることを予測した。興味深いことに、これらの回路内でDCEにおいて生成された放射は、2つのモードのスクイーズ状態であることが判明した。この放射は、マイクロ波領域での連続変数を用いて量子情報を処理するための絡み合ったフォトンとして、有用なリソースとなり得る可能性があり、したがって、上述の効果の示威ということ以上に興味深いものである。第2の研究課題は、超電導システムおよび量子ドットシステムを用いた回路QEDの研究であり、米国プリンストン大学の研究グループと協同し、強く駆動された量子ドットに関する論文を発表するに到った。第3の研究課題は、同僚との協同により、たとえば超電導回路および量子ドットシステムの動力学をシミュレーショションするための数値解析の枠組みを開発することであり、数値計算方法およびこのプロジェクトで開発したツール(QuTiP)に関して2件の論文を発表した。このプロジェクトは、計算量子物理学分野の研究者の間で大きな反響を呼び、何千件ものダウンロードがあり、現在では世界中の多数の大学や研究所で積極的に利用されるようになった。また、理研の同僚および他の研究所のグループと協同して、数件の研究プロジェクトで計算量子動力学に対しこの枠組みを現在使用中である。
2: おおむね順調に進展している
2012会計年度での筆者の研究は、最初の研究提案書で立案した計画通りに進展したと確信している。実施を望んだ主な研究課題の大部分(DCE放射の量子統計の研究、回路QED研究、そして量子動力学に対する数値計算の枠組みの開発)は完了した。現在、これらの研究課題の興味ある拡張であり、最初の研究提案書作成時には予想することができなかったいくつかの課題に従事しており、希望的観測では次期会計年度中に完了する。
会計来年度中に、回路QEDおよび量子ドットに関するこれまでの研究の拡張を続行する計画である。特に、協同開発した数値計算ツール(QuTip)を利用して、量子ドットQEDシステムの手がかりを数値計算的にかつ解析的に研究する計画である。また、強い非線形結合をもつナノ機械の多重モード共鳴器の量子領域は非常に非古典的な状態を生成することが可能であるので、このツールを適用する研究課題にも従事している。
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