研究課題/領域番号 |
11F01502
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
NORI Franco 独立行政法人理化学研究所, デジタル・マテリアル研究チーム, チームリーダー
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研究分担者 |
GHOSH Pulak Kumar 独立行政法人理化学研究所, デジタル・マテリアル研究チーム, 外国人特別研究員
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キーワード | 光合成 / エネルギーおよび電荷移動動力学 / 量子コヒーレンス / レッドフィールド理論 / 非マルコフ領域 / エキシトン・エキシトン消滅 |
研究概要 |
われわれは、発色団の凝集体における多重エキシトンの動力学を、エキシトン・エキシトン消滅過程(EEA)を組み込んで研究する。EEAは、2段階から成る過程であり、最初の段階では、2つのエキシトンが接近し結合して、より高次の励起状態が生成され、これは融合状態としても知られている。次の段階では、非常に高速の内部転換機構により融合状態が第1励起状態に復帰する。エキシトン・エキシトン消滅過程を組み込むために、どの発色団に対しても3つの断熱電子状態(基底状態、第1励起状態、およびさらに高次の励起状態)をこれまで考慮してきた。フェムト秒の尺度での多重エキシトンの量子動力学を記述するために、ガウス熱溜めに接触する発色団の電子状態に対するハイゼンベルグ演算子の厳密な非マルコフ方程式の1組を導出する。これらの方程式を用いれば、再構成エネルギーが内部サイトエキシトン結合と同程度である、強いシステム・熱溜めの相互作用の領域を解析することが可能となる。同時にこれらの方程式は、核再構成時間がエキシトン移動時間と同程度である場合でも同じ領域で有効である。特に言及するなら、本研究では、それぞれ7つおよび9つの発色団をもつ、FMO(Fenna-Matthews-Olson)複合体およびLH2(光収穫複合体2)のB800環に注目している。われわれは、最初に励起されたアンテナ発色団のエネルギーは、数ピコ秒で反応中心(トラップ)に効率的に注ぎ込まれ、量子収量が単一エキシトンおよび2重エキシトンの場合に対してそれぞれ、約96%、約46%であることを示す。EEA過程が不在(あるいは、EEAが存在してもエキシトン移動時間の尺度が内部転換過程と同程度である場合)においては、2つの2重エキシトン状態間でのエネルギーの見かけの量子ビートを約400fsというデコヒーレンス時間で観測した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は計画通りに進展した。昨年度の研究提案の主要部分であった、エキシトン・エキシトン消滅過程が存在する場合の多重エキシトン動力学の研究が実施された。2次元電子分光法により検出可能であろう、エネルギークエンチング機構における見かけの量子効果を観測した。
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今後の研究の推進方策 |
FMO複合体の多数のパラメータは未知である。たとえば、遷移エネルギー(例としては、第1励起状態から高次の励起状態への遷移)、(内部変換およびエキシトン融合の両方に対する)結合エネルギーは知られていない。したがって、エキシトン転送、エキシトン・エキシトン消滅、および内部転換過程の時間尺度のさまざまな領域に対する断熱電子状態における電子占有数の時間発展を数値計算した。計算結果は、関係する機構およびエネルギー変換過程の効率は、これらの緩和過程の相対的時間尺度に依存することを示す。したがって、FMO複合体におけるエネルギー変換機構の特性を厳密に把握するために、来年度の研究目標として次のような課題を挙げる: (i)遷移エネルギー計算するために、Renger et al., Biophys J 91, 2778 (2006)により開発された方法を用いて内部転換のための結合エネルギー、およびFMOのエキシトン融合を計算する。 (ii)結果を今後の実験で検証可能とするために、FMO複合体に第3光学応答を数値計算する計画であるが、現在はエキシトン消滅機構を組み込んでいる。この目的のためには、少なくしたヒエラルキー方程式を用いた未知度行列の方法[Y. Tanimura, J. Phys. Soc._Jpn. 75, 082001 (2006)]を適用する。
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