研究課題/領域番号 |
11F01505
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
田原 太平 独立行政法人理化学研究所, 田原分子分光研究室, 主任研究員
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研究分担者 |
ADHIKARI Aniruddha 独立行政法人理化学研究所, 田原分子分光研究室, 外国人特別研究員
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キーワード | 界面 / 非線形分光 / 水 / 振動スペクトル / 振動和周波発生 |
研究概要 |
凝縮相の基本的分子ダイナミクスの研究では分子レベルでの詳細な知識が得られているが、界面、特に液体界面に代表される"ソフトな界面"に対するわれわれの理解は未だきわめて限られている。本研究はわれわれが独自に開発した新しい界面選択的非線形分光を駆使して、これまで観測できなかった界面分子の静的、動的挙動を解明することを目的としている。前年度に、われわれが開発したヘテロダイン検出振動和周波発生(HD-VSFG)分光法の技術の習得を行い、申請時の提案課題である界面水素結合構造に対するイオンの効果を調べる実験をスタートさせたが、期待していたような顕著なスペクトル変化は観測されなかった。そこで平成24年度は次の課題として脂質/水界面の問題を取り上げた。これまでのわれわれの研究でヘッドグループが電荷をもつ脂質の場合の界面水の配向と水素結合構造は明らかになっているが、完全に中性のヘッドグループを持つ脂質の膜の界面に対する情報は全く得られていない。そこで、脂質として1,2-dipalmitoyl-sn-glycerol(DPG)を取り上げ、中性脂質膜/水界面のOH伸縮振動領域のImχ^<(2)>スペクトル測定を行った。得られたスペクトルでは幅の広いOH伸縮バンドが正の符号をもって観測された。これは、この中性の脂質膜界面には露わな電荷が無いにも関わらず、界面の水分子は平均的に水素を脂質膜側に向けた配向を取っていることを意味しており、中性の脂質においてもヘッドグループと水分子の相互作用によって界面水分子はその配向が規定されていることを示している。OH基を有するオクタデカノールおよびコレステロールの単分子膜/水界面のHD-VSFG測定によっても同様な正のOH伸縮バンドが観測されたことから、得られた結論は一般性を持つものであることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、理研において我々が独自に開発した新しい界面選択的非線形分光であるヘテロダイン検出和周波(HD-VSFG)分光を用いて、液体界面、特に空気1水界面における水素結合構造とそのダイナミクスを研究するというものである。アドヒカリ博士は短期間でHD-VSFG分光の実験を独力で行う技術を身につけ、生体膜モデルである脂質膜/水界面について実験を行い興味深いデータを得つつあり、大変順調に研究は進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
われわれが独自に開発した先進的な界面選択的非線形分光であるヘテロダイン検出振動和周波分光を駆使して、ソフトな界面における分子の静的・動的挙動を分子論的立場から解明する。特に、生体膜モデルである、脂質/水界面の研究をさらに推進する。具体的には、中性脂質膜界面の水の研究に加えて、脂質膜界面とペプチド、DNAなどの生体分子がどのように相互作用をしているかの研究へと進む。
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