研究課題/領域番号 |
11F01705
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研究機関 | 独立行政法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
杉町 勝 独立行政法人国立循環器病研究センター, 循環動態制御部, 部長
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研究分担者 |
TURNER M.J. 独立行政法人国立循環器病研究センター, 循環動態制御部, 外国人特別研究員
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キーワード | 動脈圧反射 / 大動脈減圧神経 / レシニフィラトキシン / 交感神経活動 / 血圧調節 / システム解析 |
研究概要 |
本研究は自律神経系に介入して心不全や高血圧等の循環器疾患を治療する医工学的治療に関して、動脈圧受容器から自律神経中枢への求心路を構成する有髄A線維(太くて速い線維)と無髄C線維(細くて遅い線維)が血圧調節に果たす役割や、種々の病態における各線維の変化について、システム工学的な方法論を用いて解明することを目的とする。 本年度は麻酔下ウサギの右腕頭動脈に存在する圧受容器領域を体循環系から分離して、圧反射性の血圧調節におけるA線維とC線維の役割を検討した。まず、C線維の細胞膜上に存在するTRPV1受容体を刺激し、神経線維を完全脱分極状態にして伝導を遮断するレシニフィラトキシンを神経線維周囲に投与したが、ウサギにおいてはこの受容体の発現が少なくC線維を充分に遮断できなかった。そこで、このTRPV1受容体の発現が確認されているラットを用いて同様の実験を行うために、ラットにおいて右腕頭動脈の圧受容器領域を体循環系から分離する手技を確立した。そして、圧受容器に階段状圧入力および動的な圧入力を加えて、遠心性の交感神経活動および体血圧の応答をレシニフィラトキシン投与前後で比較した。その結果、レシニフィラトシキン投与によって、高い圧入力レベルに対する交感神経活動の抑制が鈍化し、圧反射性の降圧が起こりにくくなった。それに対して、動的な圧入力に対する交感神経活動と体血圧の応答には明らかな変化は認められなかった。以上のことから、C線維は高い圧入力レベルにおける求心性情報を中枢に伝えていること、C線維は動的な圧入力情報の伝達にはあまり関与していないことが判明した。これまでの研究から、心不全においては高い圧入力レベルに対する交感神経活動の抑制が鈍化していることが知られている。このことから、心不全においてはA線維に比べてC線維が障害され、交感神経活動の抑制が悪くなっている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初はウサギを用いて実験を計画し実施していたが、ウサギではC線維上のTRPV1受容体の発現が少なく、カプサイシンやレシニフィラトキシン投与によって、C線維の伝導を充分に遮断することができなかった。そのため、TRPV1受容体の発現が確認されているラットを用いて実験を行うために、ラットにおいて腕頭動脈の圧受容器領域を分離する手技を確立し、実験を遂行した。このように途中で実験動物の変更が必要であり、新たな手技を確立するのに時間を要したために、当初の計画以上に進展させることができなかった。それでも当初の計画通り、C線維の選択的遮断で圧反射性の血圧調節がどのような影響を受けるかを明らかにすることはできた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、心不全や高血圧等のモデル動物を用いて同様の実験を行い、各種病態において動脈圧反射求心路のA線維とC線維を介する応答がどのように変化しているかを明らかにし、病態の解明と自律神経に介入する医工学的治療の開発に役立てる計画である。
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