研究課題
本研究では、合成DNAを用いて反応ネットワークを構成し、これをマイクロ流体システムと組み合わせることによって、動的な入出力に対応可能な新しい分子計算の可能性を示すことを目的とする。従来の分子コンピュータは、与えられた入力(=分子)に対して一連の反応操作を行うことにより、静的な計算結果を得るものであるのに対して、研究代表者のグループでは近年、合成DNAを設計し、これを複数の酵素と組み合わせることにより時間領域で振動する反応系を実現している。このような反応系を用いることによって、動的に変化する入力に対して、これに対応して動的に処理を行う分子コンピュータの概念を考えることができる。これにより、生体の動的なシグナルに対応する出力を計算することが可能になるため、たとえば投薬を支援するシステムなどへの医療応用を考えることができる。二年度目である平成24年度は、生化学反応ネットワークにおいて反応に必要な特定のリソースをめぐる競争が、情報処理の観点でどのような効果を有するかについて検討を加え、反応のシミュレーションモデルを構築して具体的な遺伝子ネットワークにおける競争の効果を示すことに成功した。さらに、このような性質を利用して論理回路を人工的に作成する方法のについて検討を進めている。一方、複数種の合成DNAからなる上記の振動反応系について、その反応体積を微小化するとともに、多数の反応を同時並行して実行・観察することを目的として、DNA振動反応系を微小な液滴に封入し、その内部で反応させる実験系の構築を試みた。これによって、直径数十μm程度の多数の液滴(=反応体積はナノからピコリットルオーダー)内部において振動反応を行い、これらを同時並行して観察する実験系を確立した。反応体積をさらに微小化することによって、平均的な濃度依存の現象ではなく、個々の分子の振るまいによる少数効果が観察されることを期待しうる。
2: おおむね順調に進展している
シミュレーションによる検討は計画以上に進展しているが、実験部分がやや遅れている。全体の進捗状況としては、おおむね順調といってよい。
最終年度はこれまでの成果を踏まえて、当初計画していた周波数多重化の実現可能性を示すこと、ならびに昨年度確立した実験系を用いて少数効果の観察を実現する予定である。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (4件)
Biomicrofluidics
巻: 6 ページ: 044101
10.1063/1.4758460
Physical Review Letters
巻: 109 ページ: e208102
10.1103/PhysRevLett.109.208102