研究概要 |
本研究の目的は,LHC実験においてH→bb事象探索を行うに際に重要となる背景事象の性質を明らかにすることである。特に,Zボソンを伴い生成されたヒッグスがボトム反ボトムクォーク対に崩壊する事象に着目して研究を推進した。背景事象を抑えるために,Zボソンが2つのレプトンに崩壊する事象を選別するので,探すべき終状態は2つのレプトンと2つのボトムクォーク起源のジェットとなる。ZあるいはWボソンを伴ったボトムクォークの直接生成過程や,2つのZボソンが生成される過程は,信号と同じ終状態なので,これらの事象の性質を今年度は精査した。 シミュレーションにより,上記背景事象数,および,観測するレプトンやボトムクォーク起源のジェットの分布を評価するが,そのためには,検出器の分解能,検出効率を理解し,それらをシミュレーションに反映されることが重要である。事象選別に使う,レプトンの同定効率,運動量分解能,ジェットの同定効率,エネルギー分解能,およびトリガーの収集効率など,実データから測定された値をシミュレーションに適用し,実データ中の様々な分布をシミュレーションによる予言と比較した。その結果,定性的には,事象数,分布ともにシミュレーションの予言が実データを再現していることを確認した。 LHC実験は順調にルミノシティが増加し,すでに設計値を越えている。2013年と2014年に跨がるエネルギー増強のための長期シャットダウンの後には,1x10^<34>/cm^2/sを越えるルミノシティを達成する見込みである。これに伴い陽子陽子の多重散乱による背景事象が増えるため,電子トリガー,ミューオントリガーともにハードウェアの変更を予定している。この変更後の,H→bb事象のトリガー効率や,トリガー頻度の評価,およびトリガースキームの最適化をシミュレーションにより行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
将来のトリガー変更に備えたトリガーの研究は,本来予定しなかったものであり,それをある程度の形にまとめることができたという意味では,当初の計画以上と言ってよい。一方,Z+ボトムクォークというヒッグス探索における背景事象の研究は定性的な評価は進んでいるが,定量的な評価にまでは達しておらず,計画に比べてわずかではあるが遅れている。双方を勘案し,全体としての進捗度はおおむね順調と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
当初予定通りに,今後もZ+ジェットを中心に,ヒッグス探索の背景事象の性質を精査していく。さらに,統計が増えた後は,ZZ生成が信号と極めて似た性質を持っているので,ヒッグス探索の良いベンチマークとなる。Z+ジェットの精査と並行して,ZZ生成断面積の測定が次のステップとなる。
|