研究課題/領域番号 |
11F01770
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
村尾 美緒 東京大学, 大学院・理学系研究科, 准教授
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研究分担者 |
MICHAL Hajdusek 東京大学, 大学院・理学系研究科, 外国人特別研究員
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キーワード | グラフ状態 / 測定ベース量子計算 / 量子計算 / エンタングルメント / グラフ理論 / 最大独立集合 / スタビライザー |
研究概要 |
グラフ状態は、測定ベース量子計算において非局所性を提供する資源であると共に、量子計算の量子誤り訂正符号で用いられるスタビライザー状態の部分集合を成し、局所的なClifford演算を用いてスタビライザー状態と対応をつけることのできる状態である。我々は、グラフ状態を記述するグラフの位相幾何学的な性質と、対応するグラフ状態の持つエンタングルメントのスケーリングとの関係を明らかにすることに焦点をおき、グラフ状態の多体エンタングルメントの新しい評価方法に関する研究を進めた。 多体エンタングルメントの定量的評価は、目的に応じて様々なエンタングルメント測度を用いる必要がある。我々は、Schmidt測度、エンタングルメント相対エントロピー、幾何学的エンタングルメント測度、という3つの測度に対する評価を行なった。Schmidt測度は、与えられた状態の積状態への最小線形分解における項数であり、エンタングルメント相対エントロピーは、与えられた状態の再近接分離可能状態との間の相対エントロピー、幾何学的エンタングルメント測度は、与えられた状態に再近接の純粋積状態との内積で与えられる、それぞれ独立した測度である。驚くべきことに、多くのグラフ状態に対して、これらの3つの測度はいずれもグラフ理論においてグラフを特徴づける一つの性質である最大独立集合のサイズから定量的評価を導くことが可能である、ということが示された。従来、特別なグラフ状態(2色グラフ状態)においては、エンタングルメント相対エントロピー、幾何学的エンタングルメント測度の値が一致することは知られていたが、より一般的な広いクラスのグラフ状態においてSchmidt測度を含めたこれらの3つの測度が一致するという発見は興味深い。また、これまでは計算量的な困難さから評価が難しかったSchmidt測度の評価も可能となるために重要な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々の求めた新しい評価方法は、従来より広いクラスのグラフ状態に対して、3つのエンタングルメント測度を正確に求めることができるという点で、測定ベール量子計算におけるエンタングルメント資源の定量的解析方法の新しい定式化として非常に有益な成果が得られたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によって未解決の問題として、最大独立集合のサイズの上限と下限が一致しない場合にどのようにエンタングルメントの値を正確に評価するべきか、という問題が残っている。このようなクラスのグラフ状態に対しては、我々の定式化によって、エンタングルメント測度の上限と下限を与えられるが、エンタングルメント測度の上限の評価は、2色グラフ以外の一般のグラフ状態に対しては、指数関数的に困難な問題となることが、最大独立集合のサイズを求める問題の計算量複雑性から示される。そこで我々は、比較的簡単に最大独立集合のサイズを求めることができる、三角格子やカゴメ格子などの並進対称性のある格子に対するエンタングルメント測度を解析し、システムサイズに対するスケーリングの関係を解明する予定である。
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