研究概要 |
これまで私たちは高磁場動的核分極法によるNMRの高感度化装置の開発を行って来た。この方法で,14.ITの高磁場(1H-N甑共鳴周波数600MHz)で,有機物について通常法に比べ約500倍の固体NMR感度向上を実現した。この方法では,電子スピンを安定ラジカルとして試料に加え,約30Kの温度で電子スピン遷移を飽和させる高出力テラヘルツ波を照射する。この装置は,最高磁場で動的核分極法を実現したこと,最低温度でマジック角試料回転を行ったこと,テラヘルツ波の周波数可変性を導入したなど,動的核分極について多くの世界初の記録を持つ。この装置の試作装置がほぼ完成したことにより,本研究では,これを蛋白質などの構造解析に用いるための方法論を開発する。これが当初の目的であった。 この方法の応用として,平成24年度は光励起ラジカルを用いて,動的核分極法を行う実験を行った。この方法では,サブミリ波の代わりに可視レーザー光を用い,実験は容易になる。実験では,色素としてフラビンを用いてアミノ酸のNMR感度向上を試みた。まず,溶液中ではこの実験により感度が10倍向上することを確認した。固体中では,極低温でのみこの効果が確認できた。これは,光励起により三重項スピンが励起され,核スピンの縦緩和が促進さえたことによると考えられた。この実験を再現性よく行うためのガラスマトリックスの組成を検討して,グリセロールがすぐれていることも確認した。この効果は,極低温で脱気したとき顕著に観測された。これにより,高い分解能を持つマジック角試料回転固体NMRンにより電子スピン励起状態を詳細に検討できることが分かった。この方法では,観測時には光照射をオフにすることで常磁性緩和による線幅の増加はなく,常磁性緩和による実験くり返し速度の向上を計ることができ有用であることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
発見したのは,固体でのCIDNPつまり光による核磁化増大ではなく,光による核スピン緩和促進効果であった。この効果は報告例がなく,今後,緩和促進による感度増大や電子スピンの定量的なNMR観測に結びつけられる。 残りの研究期間で,この特異な効果の原因と利用法を論文としてまとめる予定である。
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