研究概要 |
Bronner氏は、ニュートリノ振動実験T2Kにおいて、研究を進めた。T2K実験は、大強度陽子加速器J-PARCでニュートリノビームを生成し、ニュートリノ生成標的から280m離れた前置ニュートリノ測定器と295km離れたスーパーカミオカンデでそれぞれニュートリノを検出し、ニュートリノ振動の詳細な研究を行う。T2K実験は、2011年3月11日の東日本大震災による加速器施設の停止までの間に取得した全データを解析して、2011年6月にミュー型ニュートリノから電子型ニュートリノへの振動(電子型ニュートリノ出現現象)の徴候を世界で初めて観測[1]した。本研究の目的は、T2K実験において、測定データ量を増やし、各種の系統誤差を削減することにより、[1]で徴候が観測された電子型ニュートリノ出現現象を発見することである。 平成24年度のBronner氏の研究成果は、電子型ニュートリノ出現事象測定のためのMrkov Chain Monte Carlo法を使った新しい解析手法の開発、前置ニュートリノ検出器の運転責任者として安定したデータ収集の実現、前置 ニュートリノ検出器のひとつであるINGRID検出器の時間分解能の向上を目的とした読出エレクトロニクスのアップグレード作業からなる。 電子型ニュートリノ出現事象測定のため新しい解析においては、Markov ChainMonte Monte Carlo法を用いた解析コードを本研究に最適化した形で作成した。その後、この新しい解析コードで既存の測定結果を再現する確認作業を経て、現在実験グループ向けの技術レポートを作成している。 前置ニュートリノ検出器の運転責任者としての仕事では、J-PARC(茨城県東海村)に滞在し、「全測定器の状態の把握」、「運転スケジュールの決定」、「問題への対処」、「データ品質の確認」などを行い、安定かつ高い品質での物理データ収集を実現した。 INGRID検出器のアップグレード作業では、既存の読出エレクトロニクスに時間測定に特化したコンポーネントを追加することにより、ニュートリノ事象に対する時間分解能を数ナノ秒まで改善することに成功した。この成果、前置検出器からスーパーカミオカンデまでのニュートリノ飛行時間の測定精度を大きく向上することが可能となる。 [1]T2K Collaboration, Phys. Rev. Lett. 107, 041801(2011)
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