研究概要 |
これまでにミオシンXIのメンバーの二重欠損変異体(xi1 xi2)が過剰な重力屈性応答と光屈性応答を示すことを見出し,ミオシンと屈性応答の関連を調べてきた.本研究で注目しているミオシンのホモログが,シロイヌナズナの葉や根の表皮細胞において原形質流動を駆動していることは先行研究により明らかになっていた.だが,植物を代表する生命活動の1つである原形質流動が,植物の生長にどのように寄与しているかは全く明らかになっていなかった.本研究では,ミオシン二重変異体が屈性応答に異常を示したことから,原形質流動の生理学的意義の1つに屈性応答の調節があるという仮説を立て,検証するものである. XI1遺伝子の詳細な発現部位を特定するため,他細胞に移行しないER内残留型RFPをXI1プロモーター下で発現する形質転換体を作り,共焦点レーザー顕微鏡で観察した.その結果,XI1は内皮の内側を取り巻く維管束周辺の細胞層にも発現していることが明らかとなった.この細胞層と屈性応答との関連はいまだに知られていないため,今後より詳細に調べていく. 一方,アクチン遺伝子ACT8の優勢変異体fiz1が過剰屈性応答を示すことが明らかになり,花茎内部の原形質流動を観察した結果,やはりこの二重変異体と同様に,fiz1変異体でも顕著な速度低下が見られた.屈性応答と原形質流動の両方においてfiz1変異体と二重変異体が類似の表現型を示したことから,我々が着目している現象はミオシン特有の現象ではなくアクチンミオシン系細胞骨格全般が関与していることが明らかになった.この結果は,アクチン重合阻害剤ラトランキュリンBで処理すると重力屈性応答が亢進されるという先行研究の知見と合致している.また,アミロプラストのダイナミクスによる重力感知システムをもつ内皮細胞ではなく,内皮より内側の細胞(篩部または繊維細胞)のアクチンミオシン系細胞骨格の異常によって過剰な屈性応答が引き起こされた可能性が考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミオシンXI1の発現部位の解析を進め,これまで知られていなかった維管束周辺の細胞層が屈性応答の調節に関わることを明らかにした.また,ミオシンだけでなくアクチン細胞骨格と屈性応答との関連を示唆する結果を得た.これまでは重力屈性応答において花茎内皮細胞あるいは根のコルメラ細胞においてアクチン依存的に重力を感知することが知られていたが,本研究により維管束周辺の細胞層における新たなアクチンミオシン系の役割を明らかにすることができた.
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