研究概要 |
高強度運動時には,筋代謝受容器反射や動脈圧受容器反射といわれる神経性の末梢反射調節や,末梢血管の局所性調節などが複合的に働き血圧や血流を調節するが,これらの循環調節機構がどのような関連を持ち循環動態を制御しているのかについては解明されていない.本年度においては,筋代謝受容器反射と動脈圧受容器反射の関連性について明らかにするため,筋代謝受容器反射の活性レベルの差異が動脈圧受容器反射の機能に及ぼす影響を検討することを目的として実験を行った.健康な男性12名を被験者とし,仰臥位で4分間安静を保持した後,最大発揮張力の50%での静的ハンドグリップ運動を15秒,30秒,45秒,60秒または疲労困憊まで行うこととした.それぞれの運動後に前腕阻血を4分間継続させることにより,筋代謝受容器への刺激強度を多段階に変化させ,この時の動脈血圧,心拍数(R-R間隔),心拍出量および1回拍出量を測定した.心臓副交感神経活動をR-R間隔変動のスペクトル解析によって,また,動脈圧受容器反射による心拍調節の感受性(BRS)を収縮期血圧とR-R間隔の周波数伝達関数解析によって評価し,これらの変数が筋代謝受容器への刺激強度の変化に対してどのように変化するかを調べた.その結果,心臓副交感神経活動は中強度の筋代謝受容器刺激時において安静時から増加したが,筋代謝受容器刺激が非常に高強度の場合には安静から変化しなかった.また,BRSは中強度以上の筋代謝受容器刺激時において安静時から増加したが,これらの増加の程度はほぼ同じレベルであった.これらの結果から,筋代謝受容器への刺激強度がある一定のレベルに達しなければ,心臓副交感神経活動およびBRSの亢進は起こらないこと,また,筋代謝受容器反射による心臓副交感神経活動およびBRSの亢進の程度は,筋代謝受容器への刺激強度依存的ではないことが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度においては,筋代謝受容器反射の活性レベルの差異が動脈圧受容器反射の機能に及ぼす影響を検討するという計画基づいて着実に研究を推し進め,得られた研究成果を国内および国際学会において発表した.また,超音波プローブの固定器具を用いた,心拍出量と下肢血流量の同時測定の手法を確立し,筋代謝受容器刺激時の循環反応をより詳細に調べることを可能とするなど,次年度以降の研究計画の遂行に向けての準備も十分にできている.
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画どおり,今後は神経性の末梢反射調節と末梢血管の局所性調節との関連性を明らかにするため,筋代謝受容器反射の活性レベルの差異が末梢血管抵抗の変動に及ぼす影響を検討することを目的として実験を行う.また,現在進行中である筋代謝受容器反射と動脈圧受容器反射の関連性における個人差に関する検討も,個人間での循環調節の違いや法則性だけでなく,同一個人内での再現性等も含めて研究を進めていく予定である.
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