研究概要 |
高強度運動時には,筋代謝受容器反射や動脈圧受容器反射といわれる神経性の末梢反射調節や,末梢血管の局所性調節などが複合的に働き血圧や血流を調節するが,これらの循環調節機構がどのような関連を持ち運動時の循環動態を制御しているのかについては解明されていない.本年度においては,静的運動時に起こる循環反応の個人差に着目し,その反応にどの程度の個人差が存在するか,また,その反応の個人差に筋代謝受容器反射や動脈圧受容器反射の作用の違いが関与するかを検討することを目的として実験を行った.健康な男女39名を被験者とし,仰臥位で4分間安静を保持した後,最大発揮張力の50%での静的ハンドグリップ運動(HG)を60秒間行うこととした.HG後に前腕阻血を4分間継続させることにより,筋代謝受容器反射を持続的に賦活させた.測定項目は,動脈血圧,心拍数(R-R間隔),1回拍出量,心拍出量,総末梢血管抵抗,下肢血流量および下肢血管抵抗とした.心臓副交感神経活動をR-R間隔変動のスペクトル解析によって,また,動脈圧受容器反射による心拍調節の感受性(BRS)を収縮期血圧とR-R間隔の周波数伝達関数解析によって評価した.得られた主な知見は,1)HG時の心拍出量および総末梢血管抵抗の反応は,血圧の反応より被験者間の変動係数(CV)が大きい(2倍程度),2)HG時の心拍出量の反応は総末梢血管抵抗の反応と負の相関関係がある,3)HG時の心拍出量や総末梢血管抵抗の反応は,筋代謝受容器刺激時の心拍出量や総末梢血管抵抗の反応とそれぞれ正の相関関係がある,4)筋代謝受容器刺激時の心臓副交感神経活動やBRSの反応は,筋代謝受容器刺激時の心拍出量の反応と負の相関関係があるが,HG時の心拍出量の反応とは相関関係はない,であった.以上のことから,HG時の心拍出量および末梢血管応答には顕著な個人差が存在すること,また,それらの個人差は血圧上昇が至適範囲となるように均衡を保つような関係性があること,さらに,それらの個人差には筋代謝受容器反射の作用の違いが関与することが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度においては,筋代謝受容器反射が賦活している時の循環調節のみならず,実際に運動を行っている時の循環反応に筋代謝受容器反射等の循環調節メカニズムがどのように関与するかという観点から考え,静的運動時に生じる循環反応の個人差に特に注目して,その個人差の程度や成因について検討を行った.得られた成果は次年度の4月に行われる国際学会において発表する予定であり,また,国際誌への投稿準備も着実に進めている.
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画では,神経性の末梢反射等の循環調節機構の働きに注目し,筋代謝受容器反射を実験的に賦活させた時に他の循環調節機構とどのような関わりがあるかについて検討する予定であった,しかしながら,実際の運動時においてどのように循環が調節されるかについて明らかにするためには,運動時に生じる循環反応を中心に捉え,循環調節メカニズムがどのように関与するかという視点からも検討することが重要であると考えられる。そこで,当初の計画をより発展させ,今後は運動時の循環反応に対する筋代謝受容器反射等の循環調節機構の関与について,個人間でどのような違いがあるかということについても加味して研究を進めていく予定である.
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