高強度運動時には、筋代謝受容器反射や動脈圧受容器反射といわれる神経性の末梢反射調節や、末梢血管の局所性調節などが複合的に働き血圧や血流を調節するが、これらの循環調節機構がどのような関連を持ち運動時の循環動態を制御しているのかについては解明されていない。本年度においては、動脈圧受容器への負荷が徐々に増加するような継続的な静的ハンドグリップ運動中の循環反応とその調節メカニズムを、個人差を加味して検討することを目的として実験を行った。 健康な男女28名を被験者とし、最大発揮張力の50%での静的ハンドグリップ運動(HG)を15秒、30秒、45秒、60秒または疲労困憊まで行うこととし、血圧(動脈圧受容器への負荷)を多段階に変化させた。また、各HG後に前腕阻血を4分間行うことで筋代謝受容器刺激を行った。測定項目は、動脈血圧、心拍数、心拍出量、総末梢血管抵抗、下肢血流量および下肢血管抵抗とした。運動時の循環反応の個人差を変動係数(CV)により定量するとともに、それらの個人差に筋代謝受容器刺激時の循環反応や血圧変動と心拍数変動から評価する動脈圧受容器反射の感受性(BRS)が関係するか調べた。その結果、運動時間が30秒以上の場合、心拍出量およが総末梢血管抵抗の反応のCVは血圧反応のCVよりも顕著に大きな値を示した。』また、運動時間が60秒以上の場合、心拍出量および総末梢血管抵抗の反応は筋代謝受容器刺激時のそれらの反応との間に正の相関関係がみられたが、筋代謝受容器刺激時のBRSの反応との間に関係はみられなかった。以上のことから、HGを開始しある一定時間経過すると、それ以降は疲労困憊まで心拍出量および末梢血管抵抗の反応に顕著な個人差が生じること、また、疲労困憊に近い状況ではそれらの個人差に筋代謝受容器反射が関与するが、それらの個人差の成因は運動時間によって一様ではなく、他の調節機構も含め複合的に関与する可能性があることが示唆された。
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