広域運動刺激をマスクし、知覚に上らないようにする刺激の作成に成功し、モンドリアングレーティングと命名した。この刺激は、ベクション実験以外にも用いる事ができ、今後の視覚実験において幅広く応用可能なものとなっている。モンドリアングレーティングによって、駆動されたベクションの計測についても、成功を収めた。これによって、世界ではじめて、広域運動刺激の知覚、すなわち、広域運動知覚を伴わない状態でのベクションを確認した。ベクションは広域運動の知覚を伴わない場合にも、生じる事が明らかになった。このことは、ベクションが運動知覚から少なくとも部分的には独立したメカニズムを持つ事を示唆する。すなわち、ベクション専門の処理メカニズムが脳内にあることが想定される。次のステップとして、脳の破壊実験や磁気刺激による、脳の部分的一時的機能不全によって、そのベクション専門の処理メカニズムが脳内のどこに存在するのかについて、明らかにしたい。これは、目下取り組んでいる。我々は、さらにこのモンドリアングレーティングを観察している際の被験者の眼球運動、眼球位置について、赤外線によって計測し記録した。その結果、知覚に上らない、この刺激は、眼球位置を変位させる効果があり、刺激の運動方向に、眼球運動を駆動する事が分かった。これは、知覚とは別経路で、無意識の経路がベクションに存在し、身体系の駆動が無意識の経路をつかって行われることが明らかになった。ベクションには、運動知覚を伴う、意識に上る経路と、身体系の駆動を担う、意識に上らない経路の二つの経路があることがここから明らかになった。この他にも、ベクション一般の理解を深める目的で、ベクションを効率的に駆動するための刺激特性を明らかにした。さらに、ベクションと関連した心理の諸側面についても研究で明らかにした。具体的には、上昇ベクションが気分の好転をもたらすことを明らかにし、論文によって世界に発表を行った。これらの研究によって、ベクションの理解が多いに深まり、ベクションを通じて、視覚研究の発展に貢献出来た。
|