本研究は、行政の継続性・安定性と行政による権利侵害に対する救済の両立を達成する行政法理論を提示する、という目標のもとに行われた。平成24年度は、不可争力理論を位置づけ直し、公定力理論とともに行政処分の効力論を再構成することが試みられた。 《行政手続の再開》については、申請者がこれまでの研究で明らかにした総論にあたる部分(一般行政手続法)に加えて、継続的な権利救済モデルの精緻化のために、各論にあたる部分の研究を行った。具体的には、社会法、租税法の領域における手続の再開を扱った。この結果、社会法および租税法は、一般行政手続法の特別法として位置づけられるために、一般行政手続法よりも国民・市民の権利保護にとって手厚いことが如実に明らかになった。 また、ドイツでは、1960年に義務付け訴訟が法定され、1976年に行政手続の再開の規定を含む(一般)行政手続法が制定されるまでの期間、義務付け訴訟を通じて実質的に行政手続の再開の機能が果たされていたことを立法史の資料に遡りながら実証した。これにより、ドイツにおける《行政手続の再開》が、行政手続法制定以前より、行政法上の「不文の法規(ungeschriebener Rechtssatz)」として認められていたことが確認できた。 以上で得られた成果をもとに、不可争力理論を位置づけ直し、公定力理論とともに行政処分の効力論を再構成することを試みた。わが国において重厚な先行研究が存在する公定力理論と、上記で検討した不可争力理論を対応させる形で、行政処分の効力論を複合的に配置し、各効力論によってではなく行政処分全体として行政の継続性・安定性と行政による権利侵害に対する救済の両立を達成する行政法理論を実現する、という理論的見通しを示すようつとめた。
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