研究課題/領域番号 |
11J00159
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
沖田 結花里 筑波大学, 大学院・人間総合科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | TGF-β / MafK / がん幹細胞 / EMT |
研究概要 |
申請者は、発がんのイニシエーションの起こりやすさを規定する生体内因子の解明を目的として本研究を行った。これまでにTGF-βがNrf2の活性を抑制することで、発がんのイニシエーションが起こる頻度を上昇させているのではないかという仮説を立てた。TGF-βがNrf2の活性を抑制する分子メカニズムの解明を行う過程で、MafKがTGF-βの標的遺伝子であることを発見した。MafKは小Maf群転写因子に属し、ホモ2量体またはNrf2と複合体形成を形成して、化学発がん剤解毒酵素、抗酸化タンパクなどの標的遺伝子の転写活性を制御することが知られている。そこでマウス乳腺上皮NMuMG細胞を用いてMafK安定発現細胞を樹立した。予想外なことに、MafK発現細胞では浮遊培養におけるSphere形成が亢進し、免疫不全マウスでの腫瘍形成も促進していた。このことより、MafKが、がん幹細胞機能の獲得に寄与することが明らかになった。近年、上皮間葉転換(EMT)を起こした細胞が幹細胞・がん幹細胞様の性質を獲得しているという報告がある。そこでMafK発現細胞でのEMTマーカーの発現を検討したところ、上皮マーカーE-cadherin、Occludinの発現低下、および間葉系マーカーN-cadherin、Fibronectinの発現亢進が見られた。さらにMafKはE-cadherinプロモーターに結合し、その転写活性を抑制することを見出した。 MafKが腫瘍形成能やEMTを促進するという報告は今までになく、MafKが、がん幹細胞機能の獲得とEMT誘導に寄与しているという全く新たな知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TGF-βの標的遺伝子であるMafKが腫瘍形成を促進するという新たな知見を得ることができた。今後その詳細な分子メカニズムを解明することで、発がんやがんの進展を防ぐ研究の糸口になると期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、MafKが浮遊培養におけるSphere形成や、腫瘍形成を促進する分子メカニズムについて詳細に検討する。マイクロアレイを用いてMafKによって発現が変動する遺伝子の網羅的解析は行ったので、その結果をもとにMafKによる腫瘍形成促進、EMT誘導に関わる遺伝子について検討する。またMafKの発現が亢進しているがん細胞でMafKをノックダウンした際の腫瘍形成能についても検討する。また他の小Maf群転写因子(MafF,MafG)のTGF-β応答性、腫瘍形成への影響についても検討する。
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