研究課題/領域番号 |
11J00196
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
遠山 武範 京都大学, 理学研究科, 学振特別研究員(DC2)
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キーワード | ペロブスカイト酸化物 / 高圧合成 / 異常原子価 |
研究概要 |
本研究は、「新奇Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物AA' 3B4012の探索」というテーマで遂行された。目的は、Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物に焦点を当て、今までにない電気的、磁気的性質、電子状態を有する物質を合成し、それらの構造や物性を詳細に解明することである。このAA' 3B4012の特徴は、A'サイトおよびBサイトともに遷移金属元素が入ることで、A'-A'間、A'-B間、B-B間に電気的、磁気的に相互作用が生じることであり、通常の酸化物では見られない物理現象が見られる。本研究においては、A'サイトにMnを含むAA' 3B4012に焦点を当て、その電荷状態について詳しく調べるため、より不純物の少ないLa1-xNaxMn3Ti4012の合成を行った。このうち、LaMn3Ti4012に関しては混合時間の増加、NaMn3Ti4012に関しては原料であるNa202を増加させることにより、より単相に近い試料を得ることに成功した。さらにLaMn3Ti4012に関しては、その不純物量からBサイトへのMnの混入度合いを見積もるとおよそ5%程度であり、ごく微量であることが示唆されていた。さらに、共鳴X線散乱という手法を行い、La1-xNaxMn3Ti4012の組成ずれについて精密に調べた。実験および解析の結果、LaMn3Ti4012では5%程度、BサイトへのMnの混入が得られたが、La0.7Na0.3Mn3Ti4012、NaMn3Ti4012では全く混入が見られなかった。以上の結果から、La1-xNaxMn3Ti4012においては、Mn-Ti間の相互混入がほとんどないことが分かった。したがってLaMn3Ti4012におけるMnの価数状態はMn1.66+という、通常の酸化物では見られない珍しい低価数状態であることを強く支持する結果が得られた。また、La1-xNaxMn3Ti4012において、BサイトのTi4+は価数変化をせず、A'サイトのMnの価数が可変であることが分かった。今回の結果は、A'サイトのMnが価数可変であり、かつ珍しい低価数状態を取り得るということを示したもので、これはこの物質群において新たな物性発現が期待されることを示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この1年の研究では、La1-xNaxMn3Ti4012に焦点を当て、Mnイオンの特異な電子状態と磁気特性を明らかにした。特に、Mnイオンの電子状態を議論する上で重要なカチオンの不定比性を解明するために、共鳴X線散乱という新しい手法による構造解析に取り組み、この実験を英国の放射光施設Diamondにて行った。その結果、LaMn3Ti4012において、Mn1.66+という珍しい低イオン状態が実現していることを明らかにした。現在、さらに詳細な解析を進めて、論文として投稿する準備を進めているところである。以上のように、物質合成研究に加えて、新しい手法を取り入れた評価研究も進めており、当初の期待通り研究が進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今回の研究の結果、A'サイトのMnが価数可変であり、かつ珍しい低価数状態を取り得るということを示した。これはこの物質群において新たな物性発現が期待されることを示唆するものである。また近年、別のAサイト秩序型酸化物であるLaCu3Fe4012において、温度変化によるCu-Fe間の電荷移動現象が報告された。また、この電荷移動により、Cu3+という珍しい異常高原子価状態となることも報告された。今後も、このAA'3B4012に注目し、価数変化による新奇な物性発現を狙うことを目的とし、各元素を様々に変化させて新物質合成を行っていく予定である。
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