研究概要 |
本研究の目的は、エピタキシャル成長技術を駆使して3層構造シアノ錯体素子を作成し、その機能性を発現させることである。この素子は2つの機能層A,Bと、その間の電子ブロック層から構成され、それらはエピタキシャルに接している。平成23年度は、機能層としての利用が期待されるシアノ錯体薄膜のうち、主にLi化合物の基礎物性解明を目的として研究を行い、以下の成果を得た。 1. Liイオン二次電池正極材料として高い電気容量(128mAh/g)と良好なサイクル特性が報告されている、Mn-Feシアノ錯体薄膜(Na_<1.32>Mn[Fe(CN)_6]_<0.83>3.5H_2O)[文献:T.Matsuda,et al.,APEX,4(2011)047101]の電池容量をさらに増大させるために、カチオン濃度のより高いMn-Feシアノ錯体薄膜Na_<1.72>Mn[Fe(CN)_6]_<0.93>2.3H_2O(NMF93)を作成した。同薄膜電極で充放電試験を行ったところ、容量は100mAh/g程度となり、理論容量(151mAh/g)を大きく下回った。またサイクル特性も劣悪であった。そこで、buffer層(Na_<1.24>Mn[Fe(CN)_6]_<0.81>3.0H_2O)上にNMF93をエピタキシャル成長させると、容量は140mAh/gまで増大し、サイクル特性も向上した。これより、エピタキシャル成長技術は二次電池電極作成において有効であることが分かった。さらに、同電極の放電レート120Cにおける容量は、放電レート0.4Cにおける容量の50%以上を保持し、高速放電が可能であることが分かった。 2.Mn-Feシアノ錯体薄膜電極、およびMnを他の遷移金属(M=Ni,Co,Cd)に置換した薄膜電極に対して交流インピーダンス測定を行い、電極中におけるLiイオン拡散係数Dの遷移金属依存性を調べた。結果、全試料においてDは10^<-9>cm^2/s程度となり、既存の酸化物系正極材料よりも約10倍大きいことが分かった。これが高速放電の起源だと考えられる。また、Mn-Feシアノ錯体薄膜電極のDが他の3つのシアノ錯体薄膜電極のDと比較してやや小さい値を示した。これは、充放電過程で生じるMn^<3+>のヤン-テラー歪みに起因するものである可能性がある。
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