研究課題/領域番号 |
11J00249
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
栗原 佑太朗 筑波大学, 大学院・数理物質科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 遷移金属シアノ錯体 / リチウムイオン二次電池 / 正極材料 / 高速充放電 / 構造相転移 |
研究概要 |
本研究の目的は、エピタキシャル成長技術を駆使して3層構造シアノ錯体素子を作成し、その機能性を発現させることである。この素子は2つの機能層A,B、およびその間の電子ブロック層の3層から構成され、それらはエピタキシャルに接している。平成24年度は、機能層としての利用が期待されるシアノ錯体薄膜のうち、主にLi化合物の基礎物性解明を目的として研究を行い、以下の成果を得た。 Li-Mn-Feシアノ錯体薄膜は、機能層候補のひとつである。同薄膜は、高速放電が可能なLiイオン二次電池(以下LIB)正極材料として有望視されている。HBは電気自動車等への応用に向けてさらなる高エネルギー化、高密度化が求められている。こうした性能向上の為にも、ゲストであるLiイオン濃度の変化が、ホスト物質の結晶構造および電子状態にどう影響を及ぼすのか、詳細に理解することが肝要である。結晶構造の変化は電池の耐久性や使用回数に影響を及ぼす。また電子状態の変化は電池の起電力や化学的安定性に影響を及ぼす。さて、Li-Mn-Feシアノ錯体薄膜は二電子反応を示す。MnおよびFeは、どちらも原子1個あたり電荷素量分の電気を蓄えられるので、Fe量を増やすことで電池容量を増大させることができると考えられる。本研究では、容量増大を期待して、Li_xMn[Fe(CN)_6]_y2H_2Oにおけるyの値を系統的に変化させ、電極の充放電特性、構造特性を調べた。 電池容量Qはyの増加に伴い系統的に増大した。Q=115mAh/g(y=0.83),130mAh/g(y=0.87),143mAh/g(y=0.93)であった。また、y=0.83の試料においては、充放電に伴う構造相転移は観測されなかった。一方で、0.87およびy=0.93の試料においては、充放電の過程で2相分離状態が観測された。相分離の原因はMn元素に起因するヤンテラー歪みと考えられ、これは電池の使用回数や耐久性等を悪化させる要因ひとつである。これを緩和する方策としては、Mnを他の遷移金属に置換するなどが考えられ、今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の霞的は、23年度に引き続き、3層素子の機能層として利用可能な遷移金属シアノ錯体薄膜の基礎物性を解明することであった。リチウムイオン二次電池の正極への応用が期待されるLi-Mn-Feシアノ錯体薄膜の組成を系統的に変化させることで、電池容量の増大を実現した。また容量増大に伴い、構造相転移が引き起こされることも明らかした。得られた知見は、電池性能を最大限に引き出すための助けとなる。このように、本研究は目的に沿って順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度までの研究で、シアノ錯体がリチウムイオン二次電池正極材料としての高い潜在能力を有していることが示された。これを考慮すれば、計画していた3層構造素子の完成を目指すよりも、二次電池正極材料としての機能を追求するほうが有意義であると判断する。 そこで、平成25年度は計画を変更し、Li-M-Feシアノ錯体薄膜の電極性能を詳細に調べることに専念する。具体的には、Li-Mn-Feシアノ錯体薄膜におけるMn原子の一部をCo原子に置換することで、構造相転移の抑制を試みる。置換量を系統的に変化させたLi-(Mn,Co)-Feシアノ錯体薄膜を作成し、電子状態および構造特性のLi濃度依存性を明らかにする。
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