研究概要 |
本研究の目的は、エピタキシャル成長技術を駆使して3層構造シアノ錯体素子を作成し、その機能性を発現させることである。素子は2つの機能層A, B、およびその間の電子ブロック層の3層から構成され、それらはエピタキシャルに接している。前年度までに、機能層の物性、特にLi-Mn-Feシアノ錯体の構造特性および電子状態のLi濃度依存性を明らかにした。本年度(平成25年度)は、機能層の候補物質に関する知見のさらなる深化を目指した。具体的には、Mnの一部をCoに置換したシアノ錯体を作成し、構造特性および電子状態のLi濃度依存性を調べた。 シアノ錯体薄膜は電解析出法で作成した。溶液組成を適切に設定することで、Co置換量(y)の制御に成功した(Li_xMn<1-y>Co_y[Fe(CN)_6]_zwH_2O ; 0≦y≦1)。シアノ錯体はリチウムイオン電池正極材料として機能することが知られている。電池特性として放電曲線を調べると、2つのプラトー(それぞれP1, P2と記す)が観測され、電位はそれぞれ3.9V(P1)、3.3V(P2)であった。XAS測定の結果、Co置換量がy≦y_c=0.33 (y_c≦y)の試料ではP1領域でMn(Fe)が還元され、P2領域でFe(MnとCo)が還元されると判明した。また、y≦y_cで正方晶の2相共存状態が観測され、y_c≦yではそれが消失した。さらに、Feが還元されるプラトーにおける格子定数に着目すると、yの増加に伴い不連続に減少し、y≦y_c (y_c≦y)おいては10.5Å(10.0Å)であった。Feの酸化還元電位が水溶液中のそれと比較し大幅に上昇した(3.4Vから4.0V)。これは、適切な化学的アプローチを施すことでFeの酸化還元電位を増大させることができることを示唆している。このことは他の物質系で電池起電力を向上させるためのヒントとなり得る。
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