私の研究対象は、我々の銀河系内に50以上観測されるパルサー星雲という天体である。パルサー星雲はその中心に存在するパルサーによって駆動されている。パルサーは強磁場を持ち高速で回転している中性子星である。パルサー星雲は大きく、明るいために、パルサーと比較して豊富に観測データが存在する。 パルサー星雲の研究は、多くの問題が残されたパルサーの磁気圏やパルサーから吹くパルサー風の問題に深く迫ることができる重要な天体である。私の研究目的はパルサー星雲の観測スペクトルとその空間分布から、パルサーによって供給される超相対論的粒子(パルサー風)の状態を理解することである。 我々のこれまでの研究では、パルサー星雲の空間構造を一様であるという近似のもとで、その性質を研究して来た。本年度は空間構造を考慮したパルサー星雲のモデルを構築した。パルサー星雲は電波放射とX線放射で、スペクトルの振る舞いが大きく異なり、その起源が理解されていないという問題がある。電波とX線の相違について説明可能な一つのモデル「電波放射をする粒子がパルサー星雲の断熱冷却効果を起源とする」というモデルを立て、その研究を行った。その結果、このモデルにより電波とX線のスペクトルの相違を説明することが可能であるが、観測される空間構造は説明できないということがわかった。 この結果をもとにさらに発展した空間構造モデルを作ることを今後の課題とする。 パルサー星雲の空間構造を扱った研究と並行して、先に述べた電波とX線スペクトルの相違について別の視点から示唆を与える研究を行った。パルサー星雲はパルサー磁気圏から供給されるパルサー風という相対論的プラズマでできていると考えられている。私がパルサー磁気圏の研究に当たってパルサー星雲に注目したのは、パルサー星雲がパルサー風やパルサー磁気圏に比べて観測的情報をたくさん持つためであったが、非常に放射効率の悪い(つまり観測データの少ない)パルサー風の物理状態を制限するという研究が可能であることがわかった。その結果、磁気圏からの放射がパルサー風という相対論的プラズマに散乱されないためにはパルサー風のローレンツ因子が1000以上は最低必要だと言う、厳しい制限を得た。
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