研究概要 |
卵巣内で発育を完了した哺乳類の卵母細胞の核小体は,体細胞の核小体とは異なり,緊密化した形態をしている。この核小体にはrRNA合成能はないが,その機能に関しては,胚発生を支持するとの手がかり以外は何もわかってない。本研究では,ブタ卵母細胞を用い,マイクロマニピュレーションによって発育途上の卵母細胞と発育を完了した卵母細胞の核小体を除去し,異なる発育段階の卵母細胞の核小体を細胞質に注入することによって核小体を置換したのち培養し,成熟に及ぼす影響を調べた。まず,発育途上の卵母細胞の減数分裂再開に及ぼす核小体の影響を調べた。対照の発育途上卵母細胞は成熟培養後も卵核胞崩壊(GVBD)をほとんど起こさなかったが,脱核小体した発育途上の卵母細胞のGVBD率は有意に上昇した。脱核小体した発育途上の卵母細胞に,発育途上の卵母細胞の核小体を顕微注入すると,GVBDは再び抑制された。一方,脱核小体した発育途上卵母細胞に,発育を完了した卵母細胞の核小体を顕微注入した場合には,GVBDは抑制されなかった。次に,発育を完了した卵母細胞の成熟に及ぼす核小体の影響を調べた。脱核小体した発育完了卵母細胞は,第二減数分裂中期(MII)へと成熟した(MII:73%)。発育を完了した卵母細胞の核小体を顕微注入した脱核小体発育完了卵母細胞もMIIへと成熟した(MII:56%)。しかし,発育途上め卵母細胞の核小体を顕微注入した脱核小体発育完了卵母細胞の成熟率は有意に低下した(MII:21%)。以上の結果から,発育途上の卵母細胞の核小体には卵母細胞の成熟を抑制する作用があるが,この核小体の抑制機能は卵母細胞の発育に伴って消失すると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
核小体の詳細な動態を明らかにするために,蛍光蛋白質を標識した核小体蛋白質のmRNAを合成し,卵母細胞に注入することによってライブセルイメージングを行なう。また,発生過程における核小体の機能は未だ解明されていないことから,受精卵および初期胚の核小体の動態,体積および個数の変化などに注目し,発生過程における機能の解明を目指す。
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