研究課題/領域番号 |
11J00321
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長 勇一郎 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
キーワード | カリウム・アルゴン法 / レーザー誘起発光法 / 四重極質量分析計 / その場年代計測 |
研究概要 |
本年度は、LIBS-QMS法を用いた岩石のK-Ar年代計測法を確立するために、まずはLIBSによるK測定とQMSによるAr測定を同時に行うことが出来る装置の完成に主眼を置いて研究を遂行した(LIBS ; Laser-induced breakdown spectroscopy ; QMS=Quadrupole Mass Spectrometer)。 最初の段階として、LIBSとQMSからなる装置を設計し上半期で組み上げた。それらを用いた実験の結果に基づき、下半期には当該装置に以下の改良を施した。(1)真空チャンバーの改良:チャンバーの再設計による蒸気雲の付着防止。(2)高効率の集光光学系の構築。(3)CCDカメラによるサンプル表面観察光学系の構築。(4)ドライポンプの導入による測定ラインの完全オイルフリー化。(5)標準試料の増強。(6)小型分光器によるK輝線発光計測の実現。である。 以下に詳細について説明する。(1)試料にレーザーを照射した際に発生する高温の岩石蒸気は、プラズマの発光を計測する分光窓にそのまま付着してしまい、分光計測の精度を著しく悪化させていた。分光窓をチャンバー上面ではなく側面に取り付ける改良を施してこれを解決した。(2)レーザープラズマの発光を、広い立体角で集光できるように光学系を改良し、光量を40倍程度まで増加させた。(3)CCDカメラを使ってサンプルの表面の鉱物粒子の計測が出来るようにした。(4)測定ラインが真空ポンプ由来の油に汚染されないよう、排気に油を使わないポンプを導入した。(5)Kの濃度にバリエーションのある標準試料を30個製作し、スペクトルのライブラリを増強させた。(6)実験室特有の大きな分光器ではなく、惑星探査機にも搭載された実績のある小型分光器を用いた分光実験システムを作り上げた。 本年度の研究によってLIBS-QMS法を実施する実験システムをほぼ完成させ、来年度以降実験データを蓄積していく準備が完了した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究目標は、KとArの比を算出可能なシステムを成立させることであった。それに基づき、本年度は予備実験のために運用してきた暫定的な実験システムを改良することで、LIBS-QMS法の開発に特化した新システムを構築した。具体的には、(1)レーザーによる窓材の破壊や、レーザーアブレーションによって発生する岩石蒸気の窓材への付着が起こらない真空チャンバーデザインの確立、(2)惑星探査機への搭載実績もある小型分光器によるLIBS計測、(3)放出されたArの絶対量(mol)を計測できるQMSシステムの構築、を完了した。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の研究によって必要な実験装置と試料はほぼ完全に揃ったと言える。一方で、それらを用いたデータの蓄積は必ずしも充分ではない。来年度以降はこの装置のチューニングをさらに進めつつ、K計測用キャリブレーションデータの蓄積、Kの高精度な検量方法の開発(スペクトル処理法の開発)、継続的なベーキングによるQMS検出限界の引き下げ、KとArの同時測定による実験システムの信頼性の検証、年代標準試料の計測などのデータ取得を進めていく。
|