研究課題/領域番号 |
11J00341
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中井 雄一郎 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 超対称性 / ゲージ媒介模型 / ダークマター / インフレーション / gravitino / moduli場 |
研究概要 |
超対称性は、現在の素粒子物理学の標準模型を超えた理論の土台となる有力な可能性の1つである。しかし、標準模型のクォークやレプトンと同じ質量をもつボソンは実験的に見つかっていないので、現在我々が実験で到達できるエネルギースケールでは超対称性は破れていなければならない。本研究では、現象論的に大きな問題点を持たない超対称性の破れの伝達機構の構築を目指している。 ゲージ媒介模型は、隠れたセクターの超対称性の破れを標準模型のゲージ相互作用を用いて標準模型のセクターに伝える、FCNCを自然に制御できる超対称性の破れのメカニズムの有力な候補の1つである。しかし、このゲージ媒介模型にはいくつかの宇宙論的な問題点が存在する。すなわち、隠れたセクターにおいて、超対称性を破る真空がなぜ宇宙の進化の過程で選ばれたのかという問題、さらに、ゲージ媒介模型ではgravitinoが最軽量超対称性粒子となりダークマターの候補となるが、インフレーション後の再加熱温度が非常に高い場合、gravitinoの質量密度は現在の宇宙のダークマターの質量密度を超えてしまう。そこで、本研究では、ゲージ媒介模型の超対称性の破れるセクターにおいて宇宙初期のインフレーションのダイナミクスを説明する可能性を提案した。実際に、観測データと合うインフレーションを起こすことができることが分かった。このシナリオでは、一般に再加熱温度は高くなり、熱浴でgravitinoが大量生成する問題が生じるように思われるが、模型には超対称性の破れに伴うmoduli場が存在し、この場はインフレーション中に最終的な(超対称性を破る)真空での値とは異なる点に安定化するため、宇宙の温度が下がってくると、真空のまわりで振動をはじめる。最終的には、moduli場は崩壊するが、その際のエントロピー生成によってgravitino密度は薄められるため、宇宙論的に問題ない量を得ることが可能となる。我々が提案したシナリオは、標準模型を超える素粒子の現実的な模型と宇宙のインフレーションを結びつける、今までにない一つの有力な可能性を与えるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画通り、超対称性を破る隠れたセクターで宇宙のインフレーションを実現する、現象論的に大きな問題点を持たない模型を構築することができ、その成果は、学術誌に発表された。
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今後の研究の推進方策 |
超対称性の破れ、宇宙のインフレーション、ダークマターを同時に説明する現象論的に大きな問題を持たない枠組みは完成したが、解決すべき問題、考察すべき課題はまだ存在する。現在の模型では、観測データと矛盾しないためにパラメータの微調整が要求される。この微調整を必要としない形に模型を改良していくことが望ましい。また、この枠組みにおいて、宇宙のバリオン数の生成の問題をどう扱っていくかは未解決である。さらに、LHCなどの加速器実験によって、超対称性粒子の探索が大幅に進んでいる現在、我々のシナリオがLHCにおいてどのような予言をするかを考察しておくことは極めて重要である。このような点に注意し、我々のシナリオのさらなる理解、実現可能性を考察していく。
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