研究課題
近年の月探査により、全球的な固有磁場も厚い大気も持たないため一見単純に思われる月周辺の電磁気的環境は、実は非常に複雑であることが明らかになってきた。本研究は、かぐや衛星によって見出された、旋回運動する電子が月面に衝突、吸収されることによって電子速度分布関数に磁力線に非軸対称な空洞領域が現れる現象について、粒子軌道計算を用いて理論的な考察を発展させ、同時にかぐや衛星によって得られたプラズマと磁場の観測データの解析を行うことで、月周辺の複雑な電磁気的環境の中での荷電粒子の振る舞い及びそこでの物理過程を明らかにすることを目的としている。まずは、周囲に強い磁気異常のない月面付近での電子の運動を考え、月面付近の反磁性電流による非一様磁場、月面帯電、磁場に垂直な電場が電子の運動に与える影響を考慮に入れた粒子軌道計電を行い、電子速度分布関数上の電子が月面に衝突する禁制領域の特徴が、周囲のプラズマ・磁場の状況に応じて変化することを明らかにした。更に、月面下にダイポール磁場を配置して粒子軌道計算を行うことにより、比較的空間スケールの小さな磁気異常でも、禁制領域の特徴を大きく変え得ることがわかった。かぐや衛星によって観測された、この計算結果とよく似た特徴をもつ電子速度分布関数から、空間スケールの小さな磁気異常のダイポール磁場の極性、月面からの深さ、表面磁場強度を検証した。固体表面付近で磁力線に非軸対称な空洞領域が現れる現象は、荷電粒子と固体表面の相互作用を考える上で非常に基礎的な物理過程であり、基本的なアプローチは大気のない他天体にも応用できると期待される。これらの成果は、固体表面付近で観測される磁力線に非軸対称な速度分布関数を調べることによって、固体表面付近のプラズマ環境や固体表面プラズマ相互作用についての理解をより深めることができることを示している。
2: おおむね順調に進展している
理論計算により月面付近での電子及びイオンの運動を理解し、かぐや衛星によって得られた観測データと比較、解析することによってプラズマと月面の相互作用における物理過程を解明する、という本研究の目的に対して、本年度は、磁気異常周辺の非一様磁場に加え、月面帯電、磁場に垂直な電場、月面付近の反磁性電流を考慮して粒子の軌道計算を行い、実際に観測された磁力線に非軸対象な電子速度分布関数と比較することにより、ジャイロ運動を考慮した電子と月面の相互作用の特性を明らかにした。月面付近での電子の運動特性の研究が大きく進展し、おおむね順調に研究を進めることができたと考えている。
電子の理論計算及び観測データの解析から得られた知見を応用し、月面付近の複雑な電磁場環境でのイオンの運動特性を明らかにしていく。まずは、ジャイロ半径と磁場の空間スケールが同程度の場合のイオンのカオス的運動について理論計算的研究を進める。さらに、実際の観測データを解析し、理論計算と比較することでプラズマのダイナミクスに対する磁気異常の影響を調べる。
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