研究課題
本研究は、理論計算及びかぐや衛星によるプラズマと磁場の観測データを用いて、月面や月周辺の複雑な電磁気的環境の影響を受けて荷電粒子がどのように振る舞うかを明らかにすることを目的としている。採用2年目となる本年度は、周囲に強い磁気異常のない月面付近での、月面付近の反磁性電流による非一様磁場、月面帯電、磁場に垂直な電場が電子の運動に与える影響を粒子軌道計算と観測データの解析から調べた成果をまとめ、Journal of Geophysical Research誌に論文発表した。さらに、地球磁気圏内でかぐや衛星によって取得された電子・磁場データと、磁力計のデータを統合して得られる月磁場モデルを取り入れた電子軌道計算を組み合わせることで、プラズマシート電子が数kmスケールの比較的小さな月地殻磁場によって非断熱的に散乱されていることを示した。そこから、周回機搭載の磁力計や電子反射法など、これまで用いられてきた方法ではマッピングすることが困難であった、月地殻磁場の短波長成分の月面分布を導出した。また、かぐや衛星データに加え、2機編成のARTEMIS衛星データを用いてより多角的・包括的に月周辺プラズマ環境を調べることを目的として、米国カリフォルニア大学バークレー校を訪問した。滞在先では、月が地球磁気圏尾部ローブ内に位置する時に取得されたARTEMIS衛星データを解析し、(1)衛星電位計測を利用した電子エネルギー分布の解析から月面光電子の高エネルギーテイル成分が存在すること、および(2)地球磁気圏尾部ローブ内の昼側月面上空では月起源のプラズマが背景プラズマに比べて多く存在し、月周辺環境において支配的な役割を果たすことを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
理論計算及びかぐや衛星によるプラズマと磁場の観測データを用いて、月面や月周辺の複雑な電磁気的環境の影響を受けて荷電粒子がどのように振る舞うかを明らかにするという本研究の目的に対して、本年度は月面付近の反磁性電流による非一様磁場、月面帯電、磁場に垂直な電場が電子の運動に与える影響を粒子軌道計算と観測データの解析から調べた成果をまとめた論文を発表した。また、プラズマシート電子を用いて月地殻磁場の短波長成分の月面分布を導出する新たな手法の開発や、ARTEMIS衛星データの解析にも取り組み始めた。月周辺プラズマについて多くの知見が得られ、おおむね順調に研究を進めることができたと考えている。
引き続き、月地殻磁場周辺でのプラズマシート荷電粒子の運動について、月磁場モデルを取り入れた粒子軌道計算を行い、粒子軌道のエネルギー依存性などの運動特性を調べていく。加えて、本年度取り組み始めた地球磁気圏尾部ローブ内での昼側月面上空プラズマの研究をさらに発展させ、月起源プラズマが背景プラズマに与える影響についての研究を進める。
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J. Geophys. Res.
巻: 117 ページ: A07220
10.1029/2012JA017642