研究課題
本研究では、かぐや衛星をはじめとした月周回機によって取得されたプラズマ・磁場データを解析し、粒子軌道計算の結果と合わせて月周辺の複雑な電磁場内での荷電粒子の運動を考察することで、月周辺でのプラズマ物理過程を明らかにすることを目指している。採用3年度目となる本年度は、地球プラズマシートの比較的高エネルギーの電子が月面磁場によって非断熱的に散乱することを利用し、月地殻磁場の短波長成分をマッピングする手法を開発した。この内容をまとめ、Gcophysical Rosearch Letters誌に論文発表した。また、2年目から継続して取り組んでいるARTEMIS衛星による地球磁気圏尾部ローブ内での月プラズマ観測についての研究成果をまとめてJournal of Geophysical Rescarch (JGR)誌に発表した。この研究結果の大きな特色は、従来は月プラズマ相互作用において重要視されていなかった月起源プラズマが、ローブ内では背景プラズマに比べて多く存在し、ローブ電子の速度分布を変形させている可能性を示した点である。さらに、スウェーデン国立宇宙物理研究所を訪問し、月が地球プラズマシート内に位置する時に月面から飛来する高エネルギー中性粒子(ENA)の研究を開始した。月面でプロトンが後方散乱したENAのデータを解析することで、プラズマシート内では地殻磁場が強い地域と弱い地域で月面に入射するプロトンフラックスは大きく変化しないことを示した。これは、強い磁気異常の上空でプロトンがシールドされるという太陽風中のデータを用いた先行研究の結果とは対照的な結果であり、入射するプロトンの速度分布の違いが月面シールディングに大きな影響を及ぼすことを示唆している。これらのENAデータ解析とテスト粒子シミュレーションから得られた結果をまとめ、JGR誌に投稿した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は月周回衛星によって得られたプラズマ・磁場のその場観測データを用いて、月周辺で起きているプラズマ物理過程を明らかにすることである。この目的に対して、本年度はかぐや衛星、ARTEMIS衛星データを解析して得られた結果をまとめた論文を発表しただけでなく、新たにチャンドラヤーン1号衛星データの解析を開始した。当初の計画通り、扱うデータの幅を拡げて多くの知見を得るなど、研究は順調に進展した。
ARTEMIS衛星データの事例解析から見い出された、月習辺でピッチ角90°の電子が消失する現象について、多くのイベントを統計的に解析することで平均的な特徴を調べ、生成機構について考察する。また、チャンドラヤーン1号衛星が取得したENAデータから示唆された、太陽風プロトンとプラズマシートプロトンに対する月磁気異常による月面シールディングの違いについて、かぐや衛星のイオンデータを用いてより詳細に調べる。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (6件)
J. Geophys. Res.
巻: 118 ページ: 3042-3054
10.1002/jgrn.50296
Geophys. Res, Lett.
巻: 40 ページ: 3362-3366
10.1002/gr1.50662