研究課題/領域番号 |
11J00372
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
荒居 博之 筑波大学, 大学院・生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
キーワード | ケイ素 / 珪藻 / 溶出 / 底質コア / 収支 / 色素 / 数値モデル / 霞ヶ浦 |
研究概要 |
1.霞ヶ浦のケイ素収支 ケイ素は珪藻の被殻に多量に含まれるため、水界生態系の一次生産に関して重要な元素であるが、その収支を長期的観点から明らかにした研究は少ない。そこで、霞ヶ浦において長年蓄積されてきたデータベースと3ヵ年の流入河川調査結果等を整理し、霞ヶ浦の長期的なケイ素収支を推定した。その結果、霞ヶ浦では過去約30年間で流域由来のケイ素の60~70%が珪藻被殻として堆積していることが示された。さらに、収支の長期変化を霞ヶ浦底質中の生物態ケイ素濃度の鉛直分布と比較し、長期的なケイ素溶出の可能性を示した(国際誌に投稿中)。 2.湖沼底質中の色素を用いた藻類組成変化の推定 水域の藻類組成変化を推定する手法の一つに、藻類種固有の光合成補助色素を利用する方法があるが、堆積後の色素の分解速度やその色素間での違いを評価した研究は少ない。そこで、霞ヶ浦及び琵琶湖で採取した底質コア中の色素濃度と水中藻類データベースを比較することで、底質中色素の分解について検討した。その結果、分解の傾向が示され、分解速度は珪藻に固有な色素であるdiatoxanthinで小さく、クロロフィルaで大きかった。また、分解速度を評価することで、霞ヶ浦における過去約30年間の藍藻の減少傾向及び珪藻の増加傾向を再現できた。 3.霞ヶ浦におけるケイ素濃度と珪藻量のモデル化 荒居(2011修論)では霞ヶ浦におけるケイ素濃度と珪藻量の関係を簡単なモデルで表したが、数十年の平均的変化は比較的再現できるものの、年ごとの再現性は低く、信頼性に欠ける側面をもつ。そこで現在、霞ヶ浦を複数のボックスに分割し、より多くのパラメータ(流入河川流量、日射量、透明度等の変化)を組み込んだモデルの構築を試みている。モデルはケイ素等の珪藻への影響評価に利用したい。 4.底質コア試料の分析前処理 2011年度に採取した全国湖沼の試料について、凍結乾燥等の処理を施した。これらは生物態ケイ素等の分析に供する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
霞ヶ浦を主なターゲットとして、ケイ素収支の長期変化、過去の藻類組成の長期変化を推定し、ケイ素濃度と珪藻量を推定するための数値モデルの作成に着手した。これらはケイ素の動態及びその生態系影響の解明に貢献すると期待している。
|
今後の研究の推進方策 |
水-底質相互作用等を組み込んだ数値モデルの作成を継続し、霞ヶ浦におけるケイ素の動態及びその生態系影響の評価に利用する。また、全国各地の湖沼で採取した底質コアの分析を開始する。分析で得られた生物態ケイ素等の鉛直プロファイルを湖沼間で比較・考察する。さらに、霞ヶ浦で作成した数値モデルを適宜修正しつつ全国の湖沼に適用し、データベースや底質コア等の情報と合わせることで、ケイ素の動態と生態系影響に関する一般的な知見を深めることを目指す。
|