研究課題/領域番号 |
11J00372
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
荒居 博之 筑波大学, 大学院・生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | ケイ素 / 珪藻 / 長期変化 / モデル化 / 底質 / 放射性セシウム / 福島第一原子力発電所事故 / 霞ヶ浦 |
研究概要 |
1.霞ヶ浦における珪藻量長期変化のモデル化 2000年代に霞ヶ浦で観測された珪藻量の増加は、同時にケイ素濃度も上昇している点で世界的に希少であり、その解析意義は高い。また、ケイ素濃度の上昇要因として底質由来の懸濁物からのケイ素溶出が指摘されているが、ケイ素と珪藻の関係を水―底質相互作用の点から調べた研究は少ない。そこで霞ヶ浦を4分割し、珪藻量・ケイ素濃度推定モデルを作成して検証した。モデルには室内実験に基づく懸濁物からのケイ素溶出速度を始め、流入河川流量、透明度等を組み込んだ。結果、モデルに溶出を起こすことで、しない場合より2000年以降の珪藻増加をよく再現できた。また、透明度低下による珪藻優占時期への影響が示唆された。 2.放射性セシウムを用いた採泥器の特性評価 福島第一原子力発電所事故由来の放射性セシウムを指標とし、霞ヶ浦で採取した底質コア中の鉛直分布を異なる採泥器(離合社製簡易コア採泥器、同不撹乱コア採泥器、ダイバーによるアクリル管を用いた採泥)で比較した。結果、不撹乱コアとダイバーコアのセシウム分布は同様であり、深度約20cmまでの混合が示唆された。一方、簡易コアによる分布はダイバーコアの約20cm以深と概ね一致しており、高含水比で流動性の高い層の採取に適さない可能性が示された。 3.湖沼底質中の放射性セシウムの地域的分布と動態 環境省による湖沼底質中の放射性物質モニタリングは、広範囲(原発250km圏内)かつ定期的な点で貴重だが、グラブ採泥器のためインベントリー(面積当りの総放射能量)の評価がされていない。そこで本データからその推定を試み、我々が採取した底質コアの測定値と比較した。結果、多くが過小評価であったが、Cs-134/137比と採泥深に閾値を設けることで0.5~2倍の範囲で一致した。このインベントリーは文科省航空機モニタリングの降下フラックスと良好に一致した。また、有意な増加傾向が認められ、流域負荷の影響が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
霞ヶ浦をターゲットとして、ケイ素濃度と珪藻量を推定するための数値モデルの作成し、近年の珪藻増加の要因について評価した。また、福島第一原子力発電所由来の放射性物質に関して、様々な湖沼での底泥中鉛直分布を明らかにすることから、湖沼底泥の動態などを明らかにするとともに、採泥器の特性評価を行った。あわせて、こうした数値からインベントリーを計算し、降下フラックスとの比較をし、かなり良好に一致することを示した。こうした研究は独自性が高く、論文として取りまとめることが可能と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
水-底質相互作用を組み込んだ数値モデルによるケイ素動態及びその生態系影響の評価を継続し、得られた成果を国際学会で発表するとともに、英文化して国際誌に投稿する。一方で、福島第一原子力発電所事故由来の放射性セシウムの分布及び動態評価は社会的にも喫緊の課題であることから、研究計画を変更し、湖沼における底質動態評価を兼ねてこれを実施する。
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