研究概要 |
腎臓を構成する細胞のほとんどは、胎生組織である中間中胚葉に由来することから、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)からそれらの細胞を分化誘導することが、腎臓再生の最初の重要なステップである。また、核内転写因子OSR1(Odd-skipped related 1)が中間中胚葉で最も早期かつ特異的に発現するマーカーとして知られている。そこで、OSR1に対するレポーター細胞株の樹立とヒトiPS細胞からOSR1陽性中間中胚葉細胞の分化誘導法の確立を掲げ、研究を実施した。 まず、OSR1の発現をモニターするOSR1-GFPノックインヒトiPS細胞株を、既存のヒトiPS細胞株201B7より樹立するために、ROCK inhibitorを用いてヒトES細胞の生存率を改善させる報告(Watanabe, K. et.al., 2007)を基にして、独自のヒトiPS細胞に対するエレクトロポレーションによる遺伝子導入プロトコールを確立した。さらに、細菌人工染色体(BAC)をターゲティングベクターとして用いて相同組み換え効率を向上させる方法を考案し実施したところ、約3%の効率で相同組み換えレポーター細胞株を樹立することに成功した。 次に、中間中胚葉特異的マーカーOSR1の発現を指標にヒトiPS細胞から中間中胚葉の分化誘導における最適なプロトコールの確立を行った。BMP7などの増殖因子の組み合わせがOSR1発現の誘導に有効であることを見出し、ヒトiPS細胞を高い生存率を保ったまま単一細胞にまで解離する独自の単層培養法を確立したところ、上記の増殖因子の組み合わせ処理によって90%以上もの高効率でOSR1陽性細胞を作製することに成功した。 以上、OSR1-GFPノックインヒトiPS細胞から中間中胚葉細胞を高効率に分化誘導する方法を確立したことにより、平成23年度の研究計画を達成することができたと考える。
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