研究課題
本研究ではMT1-MMP遺伝子欠損によりin vivoにおいて骨髄組織での未分化細胞の相対的増加、および末梢組織での成熟細胞の相対的減少が引き起こされるメカニズムについて明らかにすることを目的とした。1.MT1-MMP欠損が生体内造血に及ぼす影響の評価MT1-MMPは末梢組織への細胞動員因子、幹細胞nicheの構成因子、造血因子の分泌制御因子であることが示唆されている。そこで生体内における造血幹細胞や造血細胞、MT1-MMP欠損が及ぼす生体内造血への影響について評価を行った。MT1-MMP-/-マウスより採取した骨髄細胞を野生型マウスに移植することで骨髄キメラマウスを作製しマウス骨髄内の造血幹細胞の頻度を評価した結果、MT1-MMP欠損はマウス骨髄内の造血幹細胞頻度に影響しないことが明らかとなった。一方、分化した造血細胞はMT1-MMP-/-マウスで減少することが明らかとなっており、MT1-MMPは骨髄nicheにおいて造血因子の発現調節の一端を担っている可能性が示唆された。2.骨髄nicheにおけるMT1-MMPの機能解析骨髄nicheを構成する骨髄ストローマ細胞から産生される造血因子とMT1-MMPとの関係性を解明するため、ストローマ細胞株を用いてMT1-MMP遺伝子抑制ストローマ細胞株を作製した。この細胞と骨髄細胞を用いて共培養を行うと、MT1-MMP欠損条件下では骨髄細胞の増殖が有意に低下することが分かった。また、ストローマ細胞が産生する造血因子量が有意に低下していることが明らかとなった。これらの造血因子はHIF-1により転写制御されていることが報告されている。またMT1-MMPはHIF-1阻害物質(FIH-1)の機能制御をしていることがマクロファージを用いた系により報告されている。そこでストローマ細胞においても同様の機構により造血細胞の分化が制御されていることを疑いFIH-1発現量を解析した結果、MT1-MMP欠損ストローマ細胞では細胞内に遊離するFIH-1量が増加していることが明らかとなった。つまり、ストローマ細胞においてもMT1-MMPによるFIH-1を介した遺伝子調節機構が存在していることが明らかとなった。本研究の成果は、論文にまとめて投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
骨髄ストローマ細胞から産生される造血因子とMt1-MMPの関係性を解明することを目的とし、MT1-MMP遺伝子発現抑制ストローマ細胞株を用いて、各種造血因子の発現解析や骨髄細胞との共培養を行った結果、MT1-MMPは造血微小環境側における発現が重要であることが明らかとなった。またMT1-MMPはFIH-1の細胞内局在を制御することにより転写因子であるHIF-1活性を調節することで各種造血因子の発現が制御されているというメカニズムを明らかにすることができた。当初の目標であった造血因子とMt1-MMPの関係性を明らかにすることができ、研究は順調に進行していると考えられる。
昨年度は、数種類の造血因子についてその発現が低下することを確認した。これらの造血因子を補うことにより造血細胞の機能が野生型と同じレベルまで回復するかを評価したところ、MT1-MMP遺伝子抑制群に比較して有意に増加するものの野生型と同じレベルまでは回復しなかった。このことから、現在明らかになっている造血因子以外にも発現が低下している因子があることが示唆された。今後は、網羅的に造血因子の発現解析を行うことにより、MT1-MMPが関与する造血因子の同定やFIH-1/HIF-1以外の新たな発現制御メカニズムが存在するかについて解析したいと考えている。
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