研究課題/領域番号 |
11J00515
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
稲葉 清規 筑波大学, 大学院・人間総合科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
キーワード | 動機付け / 報酬 |
研究概要 |
本年度は報酬スケジュール課題遂行中のアカゲザル背側縫線核から単一ニューロン活動記録を行なった。本研究で用いた行動課題は報酬を得るために視覚弁別課題を複数回成功させなくてはならないものであり、すなわち、労働負荷により短期および長期な報酬が設定されている。この行動課題をアカゲザルに訓練し、背側縫線核からニューロン活動の記録を行なった。その結果、以下の3つの点が明らかになった。 1.背側縫線核ニューロンは課題開始時に活動を増加させる。 2.背側縫線核ニューロンは無報酬・報酬の予測に関与する。 3.背側縫線核ニューロンは将来獲得できる報酬の価値ではなく、獲得した報酬の価値を表現する。 本研究の意義はこれまでの薬理学的実験によって報告された知見を電気生理学的に検証することにある。脳内セロトニン濃度が減少したヒトや動物は長く待つ報酬よりもすぐに得られる報酬を選好する傾向を示すことが知られている。これは時間的に離れた報酬の価値を低く見積もるためであることが経済学モデル等で明らかにされ、衝動的行動の原因であると考えられている。しかし、ニューロンレベルでどのように時間的に離れた報酬の獲得を可能にしているのかについてはわかっていない。よって本研究はセロトニンニューロンの起始核である背側縫線核から記録を行ない、これを検証した。 上記に記した結果2の「背側縫線核ニューロンは無報酬・報酬の予測に関与する」は、研究の目的である「時間的に離れた報酬の獲得」に関与する可能性がある。無報酬試行で反応するニューロンと報酬試行で反応するニューロンの2パターンによって、時間的に離れた報酬の獲得を調節しているのかもしれない。この結果はこれまでの報告にない新しいものであり、衝動的行動の原因の解明の発展を期待できる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度により、ニューロン活動記録実験は終了した。得られたデータを解析し、現在論文を執筆中である。来年度の上半期には投稿ができる段階まで進んでいるため、おおむね順調に進展していると考えられる。一方で、目的に記した「記録したニューロンがセロトニンニューロンであることを検証する」は、記録時に行なうことはできなかった。そのため、セロトニンニューロンを免疫染色し、記録部位とセロトニンニューロンの密度を比較することで、仮説を検証することにした。この方針も順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後はこれまでに得られた研究成果を国際論文誌に投稿する。また、当初の研究計画で予定していた、「記録ニューロンのニューロンタイプの同定」は、特別研究員採用期間中に成果として発表する段階まで進めることはできないことが予想される。来年度は今後の研究で役立つことができるように方法の確立を目指す。セロトニンニューロンと同定するためには、記録と同時に薬物投与を行なう必要がある。今年度までに、薬物投与電極の作成法は習得している。来年度は実際に使用し、その妥当性を確認する予定である。
|