研究概要 |
日本本土のウミクワガタ相把握の土台作りとして、1980年から2000年にかけて記載された雄成体のタイプ標本(11種)を借用し、形態の詳細な観察を行った。その結果シノニムが含まれ、7種に整理される可能性が生じた。さらにこれらのタイプ標本は戦前に記載された種とも比較する必要性があり、今後の調査では、それらが所蔵されている国外の博物館から標本借用、又は現地の標本調査を行う予定である。一方、手持ちに海洋調査で得られた多数の標本があるので、本研究結果をもとに正確な同定を行う。また、これらの雄成体とともに得られた幼生を精査し幼生形態の記載を行う。本研究を行うことで日本産ウミクワガタ類(特に普通種)の成体-幼生の形態と種の位置づけが明確になる。 本年度は軟骨魚類に寄生するウミクワガタ類幼生の特異的な生活環を解明した。これまでの研究で、軟骨魚類から見つかるウミクワガタ類幼生を5種記載、報告してきた(Ota&Hirose,2009a,b;Ota,2011)。 軟骨魚類から得られる幼生は、飼育すると次の脱皮で必ず成体になることから、すべて終令(3令)であった。すなわち軟骨魚類に寄生するウミクワガタ類幼生は全て終令で、それよりも若い令がこれまで一切発見されていなかった。 近年、伊豆地方沿岸のから、種不明のウミクワガタ類の幼生が見つかった。今年度にその実態を調査し、幼生の飼育観察とDNA解析によって、その幼生はGnathia trimaculataであることが明らかとなった。本種は3令幼生が軟骨魚類から見つかる種であるが、本調査では1、2令が硬骨魚類に寄生することが明らかになった。宿主調査の結果G. trimaculataは、1、2令で今のところ3種のヘビギンポ科魚類から見つかり、3令は27種ものエイやサメ(底性の種から遊泳・回遊する種に至る)から見つかった。本調査によって、同じ種の幼生が令によって硬骨魚類から軟骨魚類へと宿主を変えることが明らかになった。ウミクワガタ類幼生の生活環はいずれの令も硬骨魚に寄生することが知られていたが、今回の研究で全く異なる生活環を示すことができる。本研究に関連する論文を現在執筆中である。
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