研究課題/領域番号 |
11J00533
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
兵頭 洋美 筑波大学, 大学院・生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 果実 / 成熟 / 軟化 / 細胞壁 / 組織特異的 |
研究概要 |
果実の成熟における細胞壁の役割は、現在まで多くの研究がなされ、細胞壁の分解と果実軟化の関連が示唆されているが、そのメカニズムは未解明である。 そのため、これまでの研究結果からトマト果実において組織特異的な細胞壁の変化がみられた、果皮・隔壁・Locular tissue(ゼリー状組織)に着目し、各組織の発生過程への理解を深め、特徴のある細胞層での細胞壁合成・分解の制御メカニズムを解明することを目的とする。また、様々な果実を用いて発生過程に基づき、共通した特徴を有する組織における細胞壁合成・分解制御を解析し、組織による自律的な制御メカニズムを解明することを目的としている。 昨年度は成熟・軟化に伴う果実組織の細胞壁多糖の変化を、生化学的および組織化学的手法より明らかとした。特に、現在までに不可能であった液化途上のゼリー状組織の組織観察ついて、新規の試料調製方法を確立することにより成功し、トマト果実全体の成熟に伴う細胞壁構成糖の変化を可視化するとともに、内部の子室組織(ゼリー状組織)を含めた果実全体の細胞分化の様子を観察することが可能となった。これらの結果により、果実の軟化過程において特異的な動態を示す細胞壁多糖類として、ペクチンに加え、新たにヘミセルロースのうち、キシラン・キシログルカンの合成酵素、分解酵素による制御系も分布様式と矛盾無く働いていることがわかった。さらに、成熟において細胞壁糖鎖に結合し、その構造決定に関わる元素として、Caに着目し、生化学的分析に加え、同位体顕微鏡(SIMS)を用いてその分布をイメージングすることを実現した。 また、特異的な軟化を伴う果実を用いて、細胞壁合成・分解の制御メカニズムを比較し、様々な果実成熟過程において、果実組織による自律的な細胞壁合成・分解の制御メカニズムとその共通性を明らかにすることで、果実軟化の人為的制御を行うことを最終目的としている。そのため、モデル植物であるトマト果実と同時に食用として市販されている果実を用いて、細胞壁の分析をすすめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
果実軟化の人為的制御を行うことを最終目的としているが、果実の軟化過程において特異的な動態を示す細胞壁多糖類として、ペクチンに加え、キシラン・キシログルカンの制御と成熟に伴う分布の変化について詳細な分析が進められたため。また、新規の試料調製方法を確立することにより果実全体の成熟に伴う細胞壁構成糖の変化および多糖に結合する元素(Ca等)を可視化することが可能となり、同位体顕微鏡(SIMS)によるイメージングを果皮以外の組織でも行うことが可能となったため。
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今後の研究の推進方策 |
トマト果実全体の成熟に伴う細胞壁構成糖の定量、組成分析を行い、果実の成熟段階、および各組織ごとに異なり、その変化には糖鎖と結合する元素が重要であることが示唆された事から、さらに細胞壁結合性元素を調査する予定である。そのため、水耕栽培をはじめ、Ca等の欠乏や塩害等のストレス環境と、果実成熟に伴う細胞壁多糖の変化の調査を進めていく。また、新規に確立した試料調製方法を用いることで、果実切片の化学染色、免疫抗体染色により、果実全体の成熟に伴う細胞壁構成糖の変化を可視化するとともに、細胞分化の様子を観察することが可能となったことから、トマト果実のみではなく、多種果実の組織についても同様の方法で分析していく事が可能になったため、今後他の果実についても分析していきたいと考えている。
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