研究概要 |
W44は約20000年前に大質量星の爆発によって生じた比較的明るい系内SNRのひとつである。我々はすざくAO5でW44中心部を観測した結果、この天体の熱的プラズマがMMSNRのなかでもさらに特異な、通常のSNR進化を逸脱した電離状態にあることを突き止め、重元素が軒並み過電離状態にあることを初めて明らかにした。こうして各元素の電離状態を定量的に評価したことで、中心領域の過電離プラズマの形成過程を過去に遡って推測することが可能になった。仮にSNR進化のある時期に電離温度が電子温度を逆転してプラズマが過電離状態に陥ったとする。その後nt(電子密度×時間経過)につれて各元素は徐々に再結合して電離平衡に戻っていく。再結合のタイムスケールは元素ごとに異なるので、初期の電離温度と電子温度を仮定すれば、任意のntにおける各元素の電離温度のパターンはほぼ一意に決まる。 我々はこのような研究手法でW44過電離プラズマの成因を探った結果、約20,000年前にTe=Tz~1keVの電離平衡に到達していたこと、この時期に電子温度Teが0.4-0.5keVまで急低下して過電離を実現したことを突き止めた。また我々はこの天体の一部領域から光子係数~2.1の硬X線成分を発見した。さらにNANTEN2のデータを調査した結果、この硬X線放射領域とCO分子雲との反相関を発見した。これらの観測事実は、W44衝撃波で電子が局所的にTeVまで加速していること、加速機構は分子雲衝突とも密接に関連していることを示唆する。我々は以上の結果を論文にまとめ、2回の招待講演はじめ様々な研究会で発表した。 我々は次に典型的なシェル型SNRであるSN1006に着目し、すざくの長期観測データで内部のイジェクタの重元素分布を調査した。スペクトル解析の結果、この天体のSi,S,Ar,Feといった重元素量を初めて場所ごとに測定することができた。SN1006はW44とは対照的に希薄な周辺環境で爆発したことで知られている。このため、シェルの形態はほぼ球形に近い。ところが、我々はこのような点対称の構造の内部で上記の重元素が予想外に南東に偏って分布することを発見した。これは爆発時にすでに重元素が非対称に分布していたことを示唆する。SN1006の起源はIa型爆発と考えられるが、点対称のシミュレーションでは爆発が起きないことが知られている。したがって、我々の突き止めた観測事実は、Ia型爆発において爆発時の星内部で何らかの非対称性が必要であることを強く示唆する。先行研究に置いて銀河系外の超新星の観測から非対称爆発を示唆する結果が得られていたが、我々の発見は系内の超新星残骸から、直接この非対称性を検出した初めてのケースである。この結果を論文にまとめ、現在Astrophysical Journalに投稿中である。また、国内外の研究会でこの研究成果について複数回の発表を行った。
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