研究課題/領域番号 |
11J00586
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
潮 雅之 京都大学, 生態学研究センター, 特別研究員(PD)
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キーワード | 土壌微生物群集 / 移動分散 / CARD-FISH法 / 画像解析 / 蛍光顕微鏡 / 細菌 / 群集組成 |
研究概要 |
陸域生態系における微生物の移動分散過程と機能的多様性を明らかにするという最終目標を達成するために本年度は、それに必要な技術の習得、改善、解析手法の開発をメインに行なった。具体的には以下のことを行った。(1)蛍光顕微鏡を用いた土壌微生物の検出と画像解析による定量化。(2)改良した手法を用いた土壌微生物群集組成の分析。 (1)微生物群集の組成を定量的に明らかにすることは本研究の最終目的を達成する上で最も重要である。蛍光顕微鏡を用いたCARD-FISH法(蛍光色素と分類群特異的なプローブを用いて目的の分類群に属する細菌を染める手法)では顕微鏡下で細胞数を直接カウントするため、次世代シーケンサーに比べて定量性が高い。CARD-FISH法は水域サンプルに対して頻繁に応用されているが、土壌サンプルへの適用例は未だ少ない。本研究ではCARD-FISH法の土壌サンプルに対する適用性を検討した。その結果、超音波による土壌粒子の分散処理など土壌特有の改良点を追加することで、蛍光顕微鏡の視野下で目的の分類群の細菌を光らせて観察できるようになった。さらに、フリーソフトRを用いた画像解析プログラムを開発することによって、迅速かつ無料で顕微鏡画像の解析、細胞数の定量化が行えるようになった。 (2)新しく確立した手法を用いて、土壌微生物群集組成の解析を行った。土壌はスウェーデンのツンドラ生態系から採取されたものを用いた。ツンドラ土壌を分析した結果、αプロテオバクテリア門が細胞数として10-20%を占めて、最も優占していることが明らかになった。ただし、より優占している可能性のあるアシドバクテリア門の分析がまだ終了していないため、今後その分析を行う予定である。さらに、スウェーデンのサンプルと日本のサンプルの群集組成の違いを調べ、その解析から間接的に移動分散能力の評価を行いたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、年度前半に数理モデルを用いて微生物の移動分散能力の違いが生態系の物質循環に与える影響を予測する予定であった。しかし、シミュレーションの高速化を行うためのC++言語への移植に時間がかかり、数理モデルの結果はまだ得られていない。一方で、実証研究では、画像解析やCARD-FISH方の検討は当初の予想よりも進展しており、海外のサンプル採取、分析をほぼ完了するまでに至っている。実証研究面と理論研究面をどちらも考慮した結果、(2)の概ね順調に進展している、となった。
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今後の研究の推進方策 |
年度の前半で理論モデルによるシミュレーションの結果を得て、早い段階で論文化を目指す。一方で、土壌微生物分析はほぼ完了しており、こちらに共同研究者と結果に関する打ち合わせ、議論を行い論文化を行う。以上は年度の前半に完了することを目標とし、後半では当初の計画にあった、滅菌土壌を用いた野外操作実験に着手する予定である。
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