研究課題/領域番号 |
11J00586
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
潮 雅之 京都大学, 生態学研究センター, 特別研究員(PD)
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キーワード | 土壌微生物群集 / 移動分散過程 / CARD-FISH法 / 次世代シーケンサー |
研究概要 |
2012年度も土壌微生物の移動分散速度の推定を行なうという全体の目的を達成するために以下の研究を行った。 (1)土壌微生物群集の分析手法の改良・習得 2011年度より行なっていた顕微鏡を用いた微生物群集分析法(CARD-FISH)の改良を本年度も引き続き行った。加えて、近年微生物生態学で盛んに利用されている次世代シーケンサーを用いた土壌微生物群集組成の分析も行い、データ解析も含めてこれを習得した。 (2)地理的に離れた微生物群集の組成の比較 研究計画に則って、地理的に離れた土壌微生物群集の組成を比較して、そこから間接的に移動分散速度の推定を行なうために土壌以外のサンプルを含む様々なサンプルから微生物DNAを抽出して分析を試みている。具体的には、スウェーデン、日本の土壌サンプル、ニューカレドニアの植物と共生する微生物サンプル、空気サンプルなどを収集し終え、これらの分析を進めているところである。 (3)野外における微生物の移動分散速度の推定 環境サンプル中の微生物群集の分析手法をほぼ習得し終えたことを受けて、野外での微生物細胞の移動速度の推定を試みた。 方法は、森林内に溶液を満たした遠心チューブを設置し、経時的に溶液内の微生物細胞の数をカウントすることで、単位時間あたり、単位面積当たりに加入してくる微生物細胞数を算出する、というものである。予備的に反復数1で24時間あたりに遠心チューブに加入してぐる微生物細胞数を計測した結果、森林内では1時間、1m^2あたり3.46×10^7紬胞(1細胞/sec/cm^2)の微生物が加入してくることが明らかになった。 今後、(3)の研究のような野外操作実験を行なっていくことによって、野外での微生物の移動分散過程が明らかになってものと考えられる。以上の研究に加え、本年度も論文執筆、学会発表を積極的に行った。査読付き原著論文としては、3本の論文が発表され(Plant and Soil、PLoS ONE、Biology Letters)、1本が受理目前である(Soil Biology & Biochemistry)。学会・研究集会での発表は5件行い、内2件が国内での招待講演、3件が国際学会でも発表である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画では次世代シーケンサーによる土壌微生物群集の分析は、効果的ではあると分かっていたが研究資金の面で断念していた。しかしながら、関連研究者のところで比較的安価に分析できるようになったことを受けて次世代シーケンサーを用いた解析も行なうことにし、予想以上の速さで結果を得ることができた。また、一連の研究で次世代シーケンシングに関する技術、解析方法も学ぶことができた。このことは今後の研究計画の進展に大きな利益をもたらすと考えられる。また、論文執筆も順調に進み、2011-2012年度の結果が早くも受理目前まで来ていることは大きく評価できる。したがって、本研究は当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、主に野外における操作実験を行う予定にしている。具体的には滅菌土壌の野外設置を行い、経時的に微生物群集の発達を次世代シーケンサーと顕微鏡を用いた方法によって解析していく。また、微生物群集の分解活性も同時に測定してく予定である。当初計画していた数理モデルによる結果の事前予測は行わないこととし、結果が得られた後に時系列データを解析するための新しい技術を用いて、データを解析する。得られたパラメーターを用いて、最終的には、微生物の移動分散速度が大きい場合と、小さい場合をうまく数理モデルを用いて比較することで、微生物の移動分散が陸域生態系の動態(物質循環など)に与える影響を推定することを目標とする。
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