研究課題
サブMevから数十MeV領域でのガンマ線天体観測においては、元素合成による核ガンマ線、陽子加速により生成された中性パイ中間子の崩壊による特徴的なスペクトル構造をもつ連続ガンマ線など、MeV領域でしか得られない情報が豊富にあり、高エネルギー宇宙現象の理解に重要である。しかし、他のエネルギー帯域と比較してMeV領域での感度は2桁以上悪く、従来の観測方法を凌駕する技術の確立が長年の課題とされてきた。我々の研究室では、0.1-30MeVのガンマ線に対して、COMPTELの10倍の感度とσ<2度の高撮像能力、3strもの広視野をもつ衛星搭載観測装置の実現を最終目標に、その前段階として気球実験により新しい観測技術の確立へ向け、独自の技術を用いた、ガス検出器とシンチレーションカメラを組み合わせた電子飛跡検出型コンプトンカメラ(以下、ETCC)の開発を進めてきた。平成23年度においては、上記目標において実現のカギとなる感度の向上へ向け、従来の小型ETCCの50倍の有効面積をもつ30cm立方大型ETCCの開発を行い、有効面積が従来の50倍になるための見通しが立つことを明確化し、それら成果を学会にて発表した。具体的には、以下に挙げるとおりである。(1)シンチレーションカメラ従来の60個から72個へ増設を行い、エネルギー較正を行った。(2)Geant4シミュレーションによるシンチレーションカメラ配置の最適化により300keVにおいて従来の1.7倍の有効面積が期待できることを確認した。(3)シミュレーションにより、ガス検出器周辺の物質をアルミ製からPET樹脂製に変更することで検出効率が約1.3倍向上することを突き止め、業者との連携によりまずは小型ETCCで使用するためのガス検出器筐体の設計・制作を行い、これを用いたガス検出器の動作実証に成功した。また冬にはこの結果を基にした気球実験搭載用大型筐体の制作の設計も行った。
1: 当初の計画以上に進展している
宇宙環境でのMeVガンマ線観測においては、雑音イベントの除去と有効面積をいかに向上させるかが重要課題となる。このうち、我々が開発しているETCCの強力な雑音イベントの除去能力については過去に行われた気球実験により既に実証済みであった。残る有効面積拡張の問題について、平成23年度に行った大型化ETCC開発とシミュレーションで実現の見通しが明確化されたことのインパクトは当初の計画以上の成果である。
当初の計画では北海道大樹町においての気球実験を予定していたが、気球実験実施を管轄するJAXAの運営方針により、気球をもちいた理学実験は凡て一律に受け入れない運びとなった。これを受けて我々の研究室では、目標の達成のため、放球地を変更、スウェーデン・キルナでめ気球実験を平成25年度の夏に行えるよう計画を切り替え、既にこれに向けた準備を進めている。平成24年度上半期はキルナでの放球に向けた気球搭載検出器の開発を行い、下半期にJAXA協力のもと、環境試験を実施、平成25年度夏の放球へ向け、万全を期す体制を予定している。
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Proceedings of the 32nd International Cosmic Ray Conference
巻: (CD-ROM)
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