研究課題/領域番号 |
11J00611
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
阿部 希望 筑波大学, 大学院・生命環境科学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 近代日本 / 種子屋 / 民間育種 / 育種技術史 / 選抜育種 / 固定種 / 種子生産・流通 / 野菜産地形形成 |
研究概要 |
本研究は、農業史研究において等閑視されてきた近代日本農業の展開に関する研究であり、農業の基盤となる種子生産、特に研究蓄積のなかった民間主導の野菜種子の生産・流通に焦点を当てた研究である。具体的には近代日本の野菜生産を支えた「種子屋」に着目し、明治中後期以降における野菜生産の新ステージの到来において果たした「種子屋」の展開と役割について明らかにしてきた。今年度は、(1)種子問屋、(2)種子小売商、(3)採種管理人兼種子仲買商という経営形態の異なる3タイプの「種子屋」を取り上げ、一次史料に基づき、その経営展開を検討した。 近代の市場から求められた野菜の質と量を確保する上で、決定的な意味を持つのは種子の斉一性であった。本研究はそれを担保する固定種の育種と、その増産・大量流通システムを一次史料の分析によって初めて体系的に解明し、民間育種家が果たした役割を明らかにした。野菜種子の育種は近世より始まるが、そこで生み出された在来種は近代の市場から要求される斉一性を担保できなかった。近代の種子屋は選抜育種を繰り返して遺伝形質の斉一な固定種を育成した。この固定種が近代の野菜産地形成を可能とし、かつ第二次大戦後に開発され一般化される一代交配種(F1)の原種となっていく点を指摘した。 筆者はこの成果の一部を2011年度日本農業史研究報告会(2011年6月11日、於:東京大学)において口頭発表するとともに、同上学会『農業史研究』(46)に「水田地帯における野菜生産の発展と種子小売商の役割-新潟県北蒲原郡『種仁商店』を事例に-」(2011年3月)として投稿論文に発表した。さらに、これまでの一連の研究成果を学位請求論文「近代における野菜種子屋の展開と役割」にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度の研究課題であった種子屋の一次史料分析を終え、その成果の一部を投稿論文として発表するとともに、博士論文にまとめることができた。また、野菜育種に関する史料調査・聞き取り調査も積み上げている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、以下の2点に集約する方向で、研究を推進していく。 第1に、今年度まとめた博士論文の加筆・修正を加え、単著出版を目指す。第2に、近代における民間育種家の果たした役割を明らかにするために、これまでの種子屋研究を精緻化していくとともに、野菜以外の作物育種や農業生産の解明も視野に入れ、近代日本における農業発展の実証分析を進めていく。 当初の研究計画では分析対象を「野菜」に限定していたが、民間育種の果たした役割を再評価する上で、今後は稲・蚕種・果樹等にも分析対象を広げて研究調査を行いたい。
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