本研究は、農業史研究において等閑視されてきた近代日本農業の展開に関する研究であり、農業の基盤となる種子生産、特に研究蓄積のなかった民間主導の野菜種子の生産・流通に焦点を当てた研究である。 わが国の資本主義経済の確立に伴う近代都市の成長により、消費者人口が増加し、都市近郊に野菜産地が形成された。こうした近代市場の成立に対応した新たな野菜生産の発展には、高品質な種子(固定種)の大量供給が不可欠であり、これを支えたのが「野菜種子屋」であった。本研究では、明治中後期以降の野菜生産の近代化という新たな動向の中で、「種子屋」がどのような役割を果たし、展開したのかを実証的に解明することを目的とした。 本年度は主に、昨年度から調査研究を進めてきた「採種管理人兼種子仲買商」の経営分析を中心に、新たに発見した「採種農家」の史料を分析し、それらとこれまでの研究成果を総合的に検討することで、近代日本における民間育種家の役割とその歴史的展開を明らかにした。この成果を社会経済史学会、経済制度センターセミナー・経済発展研究会、首都圏形成史研究会において口頭発表するとともに、「近代における野菜種子需要拡大に伴う種子屋の機能分化と連携-『採種管理人』と『種子仲買商』の役割-」としてまとめ、現在、社会経済史学会『社会経済史学』に投稿中である。また、昨年度に引き続き、野菜育種に関する一次史料所在調査を蓄積する一方で、今年度は野菜以外の作物育種(稲・蚕種・果樹等)にも分析対象を広げて、複数の重要史料を入手した。
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