研究概要 |
本研究の目的は、東海-神岡間長基線ニュートリノ振動実験(T2K実験)によって、ニュートリノ振動を高統計、かつ高精度に観測し、全ニュートリノ振動パラメータの測定を行うことである。T2K実験は、3月までのデータ解析の結果、νμ→νe振動からのνe出現事象候補を世界で初めて6事象観測し、θ13≠0の兆候を捕えた(θ13=0である確率は0.7%)。この結果を出すにために、私は、東海村における前置検出器の運転責任者を務め、T2K実験のデータ取得が安定して行われることを実現した。一方で、将来の精密測定のために、系統誤差を抑えることが必須である。私はそのために、荷電π中間子の反応断面積測定を行った。T2K実験の信号は、ν,n→1,pで表せられる荷電カレント準弾性散乱である。この反応のバックグラウンとなるのが、終状態に荷電π中間子が生成される、ν,p→1,p,πという荷電カレント1π生成反応である。この反応で、終状態のπ中間子が吸収されて検出されないと信号と見間違えてしまう。この吸収確率は、ニュートリノエネルギーがΔ共鳴のエネルギー領域にあるために、比較的高く、吸収確率の不定性が大きければ、信号発見の不定性も大きくなってしまう。実際に、過去の実験の不定性は30%と大きいために、信号発見の不定性の最も大きな要因の一つとなっている。そこで、私はカナダTRIUMF研究所のπビームを使用して、新しい実験を行った。2011年8月のデータ取得のために、新しい検出器の設計、作成をおこない、無事にデータ取得を終えることができた。現在は取得されたデータ解析を行っており、24年度前半に結果をまとめて発表する予定である。
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